日本経団連タイムス No.2856 (2007年4月19日)

雇用委員会を開催

−「これからの雇用政策」聴取


日本経団連は5日、東京・大手町の経団連会館で雇用委員会(鈴木正一郎委員長)を開催し、阿部正浩獨協大学経済学部准教授から、「これからの雇用政策」をテーマに講演を聴取した。
講演の概要は次のとおり。

1.現下の雇用情勢

失業率は改善し、新卒採用は空前の売り手市場となっているが、自然失業率は高止まりするものとみられる。その背景の1つが雇用のミスマッチである。
米国では1960年代後半から産業の構造調整を行い、製造業部門の雇用者シェアを徐々に減少させてきた。一方、日本は産業の高度化といいながら、現在でも製造業部門が相当の雇用者シェアを占めており、今後、産業の構造調整が行われていく可能性がある。
雇用者の人員構成をみると、「バブル世代」が多く、「失われた10年世代」が少ない。こうした状況が各企業や産業全体でみられ、人的資本の蓄積上大きな問題をはらんでいる。
失われた10年世代は、教育訓練の機会が乏しかったことに加え、非正規社員の割合が高く正社員としての教育を受けていないものも多いことから、長期的な企業経営への影響、ひいては今後の経済成長にも大きな問題をもたらすであろう。

2.雇用政策の守備範囲

現在の雇用政策は労働基準強化の方に動いており、企業の雇用政策に直接的に影響する場面が増えている。基準を上げるほど、企業への制約は強まることになる。雇用者保護は重要であるが、企業の競争力がそがれることは問題である。労働基準が企業の雇用政策をどこまで左右できるのか、経済への影響も含め議論する必要がある。

3.雇用政策だけでよいのか

雇用政策は経済政策の限られた側面しか持っていない。日本は敗戦後、傾斜生産方式で経済を立て直してきた。高度経済成長を経ても、そうした開発主義型の経済政策が行われている。
また、為替レートの変動に対し、日本の企業は改善活動によるコストダウンで対抗し、新機軸を打ち出さずにきた。90年代には、正社員の新規採用を控え、外部労働力の活用など雇用のコストダウンを行った。開発主義型の経済成長、為替レートの問題が奥底にあり、結果として失われた10年世代、格差問題が生まれている。
日本の1人当たりの国民所得は米ドル換算ではトップクラスだが、購買力平価で換算すると、順位を落とす。非効率的な産業や行政組織などが足を引っ張り、日本の生活者は豊かな生活を享受できないでいると思われる。
開発主義型の経済政策を早い段階でやめ、購買力平価を低下できていれば、日本の企業は賃金水準を現在ほど上げなくても、国民の豊かさを維持しつつ、グローバル化の中で競争できたのではないか。
そうした意味では、雇用政策も重要だが、規制や利権でがんじがらめのマーケットの効率化を図り、国民が豊かさを享受できる社会をつくることが必要だ。

4.雇用政策に求められること

集団交渉がナンセンスになりつつあることから、労働者の交渉上の地歩を向上させることが必要である。そのためには個別交渉を重視する政策が必要であり、労働契約を明確化すべきである。企業と従業員が1対1で労働契約を結び、その中で働き方を決めていくなど、就業時間と雇用期間のさまざまな組み合わせにより契約を結べばよいのではないか。
また、今後は、ディーセント・ワークの視点を雇用政策に求めていくことが必要であろう。

【労政第一本部雇用管理担当】
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