日本経団連タイムス No.2862 (2007年6月7日)

「東アジアの経済統合と日米に与える影響」

−経済広報センターが米ブルッキングス研究所とシンポジウム共催


日本経団連の関連組織である経済広報センター(御手洗冨士夫会長)は、米国のブルッキングス研究所との共催で5月21日、東京・大手町の経団連会館においてシンポジウム「東アジアの経済統合と日米に与える影響」を開催した。同シンポジウムでは、日本経団連の米倉弘昌副会長が基調講演を行い、「経済連携に関する経済界の考え」について説明した。米倉副会長の講演要旨は、次のとおり。

グローバル化の進展と人口の減少という大きな潮流の中で、わが国が持続的成長を遂げるにはアジアのダイナミズムを取り込み、アジアと共に豊かさを享受することが不可欠である。そのための重要な手段がEPA(経済連携協定)であり、そのネットワークをベースに経済統合を進めていくべきである。また、資源・エネルギー、食料に対する需要が世界的に増大する中、これらの供給国との関係を緊密化し、円滑な取引関係を保障することが喫緊の課題であり、EPAはその有効な手段でもある。

こうした基本的な考え方に立って日本経団連では、東アジアに重点を置きながら、ASEAN等との多国間EPAと、戦略的に重要な国との二国間EPAとを、同時並行的かつ迅速に推進すること、また、より包括的で質の高いEPAを実現することを、政府・与党などに働き掛けてきた。その結果、昨年後半から今年にかけて、かなりの進展が見られたが、これまで日本がEPAを締結済みか、大筋合意に達している国との貿易額は全体の14%にすぎず、交渉中・交渉開始予定の国を加えても3分の1程度である。引き続き、EPAの締結推進を政府に求めていく必要がある。

わが国の今後のEPAの展開として、二国間の線的なEPAを多国間の面的なものにし、さらにそれを東アジア中心にできるだけ拡大していく必要がある。広く東アジア全域に及ぶEPAを実現するためには、ASEANとの包括的なEPA、いわゆるAJCEP(日ASEAN包括的経済連携協定)を締結することが極めて重要である。AJCEPが実現すれば、ASEANに日本、中国、韓国を加えた、「ASEANプラス3」、さらにインド、豪州、ニュージーランドを加えた「ASEANプラス6」など、より広範な多国間EPAへの道筋も徐々に見えてくる。

このような中、昨年11月のAPECサミットにおいて、米国から、「アジア太平洋自由貿易圏」という考え方が提示された。日本にとって対外関係の基軸は日米関係である。そのような観点から、日本経団連では、昨年11月、日米EPAの締結に向けて共同研究の開始を求める提言を取りまとめた。日米EPAの締結は、東アジアで進む経済統合と米国とを橋渡しするという意義もある。さらに今年1月には、米国ビジネス・ラウンドテーブルと共同で、同じ趣旨の声明を取りまとめ、公表した。日米関係が非常に良好な状態にある今こそ、両国間の経済連携を強化するための枠組みについて検討すべきである。

今後、わが国が優先的にEPAを結ぶ相手国・地域を選定する際の基準として、第1に貿易・投資の拡大・円滑化が期待できる国・地域、第2に経済的不利益の解消・回避が必要な国・地域、第3に政治・安全保障上の配慮から関係の維持・強化が求められる国・地域、が挙げられる。このような観点から、日本経団連としては、米国やEUとのEPAについて早急に共同研究を開始すべきだと考えている。

先般、米韓FTA交渉が妥結したことは、二国間協定のネットワーク化が世界の大きな流れとなっていることを明確に示した。韓国はEUともFTA交渉を開始している。わが国としても、これに後れをとることなく、経済連携のネットワークを拡大していく必要がある。

そのためには、わが国としては、国内で進めている構造改革を加速化していく必要がある。特に競争力を持った健全な国内農業の構築と、EPAの締結との両立が最大の課題である。経済界としては、引き続き、日本国内における農業構造改革を支持するとともに、その着実な実施を働き掛けていく所存である。この点、豪州とのEPAが試金石になる。日本経団連では、2月に豪州へミッションを派遣し、農産品については、緒についたばかりの国内改革を実効あるものとするためにも、その取り扱いに配慮しつつ、早期にEPAを締結すべきことを豪州政府首脳に伝えたところである。

今後とも、EPAに関する日本経団連の考え方、取り組みにご理解をいただきたい。

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シンポジウムではこのほか、藪中三十二外務審議官の「日本の外交政策」をテーマとする講演があり、その後のパネルディスカッションでは、域内における貿易・投資活動の活発化により緊密の度を強める東アジア経済圏の行方について、日・米・中・韓各国の識者により活発な討議が行われた。

午後には、アジアの発展を牽引する中国経済がはらむ正負両面の可能性と、大統領選を控えた米国の今後の対外方針をテーマにパネルディスカッションを行い、各パネリストから現状の分析を踏まえたさまざまな見解が示された。日本を含む東アジア地域の今後の国際環境を占うべく開催した今回のシンポジウムには多くの関心が寄せられた。

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