日本経団連タイムス No.2863 (2007年6月14日)

第96回ILO総会開幕

−御手洗会長がジュネーブ訪問/ソマビアILO事務局長、ラミーWTO事務局長と懇談


ILO(国際労働機関)の第96回総会が5月30日、スイス・ジュネーブで開幕した。会期は6月15日まで。日本経団連は、御手洗冨士夫会長を代表とする11名の日本使用者代表団を派遣している。6月4日、5日とジュネーブに滞在した御手洗会長は、ILO総会に出席するとともに、ILOのファン・ソマビア事務局長、WTO(世界貿易機関)のパスカル・ラミー事務局長と懇談を行った。

今年のILO総会の議題の1つは、公正な成長と雇用の拡大に寄与し得る「持続的な企業」をいかに促進するかというもの。4日、御手洗会長は、ILOのソマビア事務局長と懇談を行い、グローバリゼーションの中で、生産性の高い経済と人々の生活の安寧を共に達成することの重要性について意見を交換した。御手洗会長は、バブル崩壊後の日本経済の動向と、グローバリゼーションの進展に伴う雇用問題への日本企業の取り組みについて紹介。また、厳しい国際競争の中で、生産性の向上が必須であるとともに、働く人の生活の安定も確保できるように種々制度の改革が求められていると述べた。一方、ソマビア事務局長は、「希望の国、日本」という日本経団連ビジョンが、あらゆる人の社会への参加を促す構想であるとして高く評価した。

5日のWTOのラミー事務局長との懇談において、御手洗会長は、日本経団連が一貫してWTOを基軸とする多角的自由貿易体制の維持・強化の重要性を説いてきたことを主張するとともに、ドーハ・ラウンドのこれ以上の先送りは許されないとして、年内妥結を強く訴えた。ラミー事務局長からは、今後の交渉は、第1段階で農業補助金、農産品関税、鉱工業品関税の問題を整理し、第2段階でアンチダンピングやサービス貿易自由化の問題を扱って妥結という形になるであろうこと、農業・鉱工業品双方について高いレベルの内容を追求する必要があることなどを語った。また、自らG8サミットに出向いて、各国の首脳に働き掛けを行う予定であると、交渉妥結に向けて意欲を見せた。

また、アジア太平洋地域21カ国の使用者団体の連合体であるCAPE(アジア太平洋経営者団体連盟)の総会が4日開催され、役員改選の結果、御手洗会長がCAPE会長に就任した。

技術議題の審議状況

ILO総会における技術議題の審議状況については次のとおり。

第4議題「漁業分野における包括的国際労働基準」(基準設定)

本議題の目的は、漁業分野に関する既存の7つの条約および勧告を統合および改正し、新たな条約として採択することである。これらの条約は採択されてから40年余りも経ち、批准数も多くない。そこで各国の漁業の実態を勘案し、現状に即した、また小規模漁業も含めて、より多くの漁船員の労働条件改善につながる条約づくりがめざされた。

同議題は2004年および05年の総会において、いったん討議されたが、硬直的で規範的な条約案となったため、使用者側と多くの政府が投票を棄権し、条約案が廃案となった経緯がある。

今回の討議に先立ち、専門家による事前協議が行われ、日本からも多くの国に適用できる具体的提案を行ってきた。日本が条約を批准するに当たって最も重要なのは、船員居住設備を規定する基準となる船の大きさと具体的な居住設備の内容である。前者については、船の長さと総トン数の読み替え、後者については寝台の大きさなど具体的な数値について日本の主張が認められ、条約案の内容について明るい見通しが立ちつつある。

第5議題「21世紀初頭におけるILOの中核的使命遂行とディーセント・ワーク促進のための機能強化」(一般討議)

ILOは、働きがいのある人間らしい仕事を意味する「ディーセント・ワーク」の促進を基本政策として掲げている。本議題は、09年のILO設立90周年を目前にして、グローバル化が進む今日の状況において、ILOの活動を再定義するとともに、各国においてディーセント・ワークを具体化し、促進していくためにILOはどのような役割を果たすべきかなどについて討議を行うものである。

まず論点として、(1)ディーセント・ワーク推進のために、加盟国と事務局はどのように連携していくべきか(2)各国のディーセント・ワーク推進状況を定期的に報告する場を設けるべきか(3)UNDP(国連開発計画)等他の国際機関との連携はどのように行うべきか――などに整理が行われ、現在政労使による活発な議論が始まったところである。

第6議題「持続可能な企業の促進」(一般討議)

現在、経済発展や雇用創出に対する民間企業の多大な貢献に関する認識が高まっている。本議題は、企業が生産性の高い公正な経済発展や雇用増大に対して一層の役割を果たすには、どのようなビジネス環境が求められるかなどについて討議を行う。本議題は使用者側の働き掛けで実現したものである。

政労使による活発な討議が繰り広げられ、多くの点で認識の一致が見られている。例えば、持続的な企業を促進する上で、(1)平和や政治的安定(2)政労使による社会対話の促進(3)起業を促す文化の醸成(4)マクロ経済の適切な管理(5)企業に対する金融支援(6)人的資源開発・教育訓練の促進――などが重要であること。また、ILOの役割としては、政労使三者構成という特徴を活かし、三者による社会対話を今後も促進し、一方で、ILOの専門知識を活かし、地域や国の実情を考慮に入れ、より実践的な技術協力を展開していくことなどである。

しかしながら、使用者側が、過度な法規制は企業の活力を低下させるなど、法的枠組みの柔軟性の必要性を訴える一方、労働側は、ディーセント・ワークの実現に向け、国際労働基準、国内労働法などによる労働者保護強化の必要性を主張し、結論に至るまで激しい議論も予想される。

【労政第二本部国際労働担当】
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