日本経団連タイムス No.2863 (2007年6月14日)

第100回記念日本経団連労働法フォーラム開催

−「相次ぐ労働法改正の全体像と企業実務への影響」を総合テーマに


日本経団連主催、経営法曹会議協賛による「第100回日本経団連労働法フォーラム」が7、8の両日、都内のホテルで開催され、全国から経営法曹会議所属の弁護士170名、企業の担当者327名が参加した。
第100回の記念大会となる今回は、山口浩一郎・上智大学名誉教授の記念講演、弁護士・学識者・企業実務家を交えたパネルディスカッション等、多角的な観点から近年の労働法改正の全体像と立法動向を概観した。
さらに弁護士報告では、今国会で成立または審議中の労働関連法案のうち、改正パート労働法、労働契約法案、改正労基法案を中心に検討し、立法・改正に伴う企業の留意点、対応策を探った。
弁護士報告、質疑討論の概要は、次号に掲載予定

「戦後労働法制の流れと現在の立法動向」山口・上智大学名誉教授が記念講演

<労働法から雇用法へ>

欧州各国の労働法制は、労働法から雇用法、つまり集団的労使関係から個別的労働関係の時代へと、法整備の方向性がシフトしてきている。日本では、個別・集団の区分・法体系は戦後労働三法で確立し、その後、個別的労働関係法は、労基法から労災保険法、安衛法、最賃法等の展開、均等法・判例法理等により拡充された。労働契約をめぐっては、民法(雇用)と判例法理による体系が既にある。現在、労働法に残された課題は、(1)雇用関係・労働者性(例=有償ボランティア等)(2)労働時間の弾力化(3)労働者代表制のあり方――である。

<労働契約法案の問題点>

前述の課題認識に立つと、今般の労働契約法案には疑問がある。まず、民事関係の法律を法務省でなく厚生労働省が立案すること自体が奇妙である。さらに、民法の特別法なのか、保護法なのか、目的規定をみても判然としない。「国の役割」として審議会答申には「法の周知」とあるが、市民法では自己責任が働くこと、また法の適用は司法の役割であり、行政官庁が関与すべき問題ではない。法案内容をみても、信義則は強調されているが、肝心の契約当事者の基本的な権利義務が明示されていない。これでは何が権利濫用に当たるか、何のために立法するのか、不明点が多く非常に問題の多い法案である。

<労働時間規制の今後>

自己管理型労働時間制が今般の改正労基法案から削除されたが、政権与党は政治責任をもってきちんと議論すべきである。そもそも日本の労働時間規制になじむか、対象者範囲などさまざまな懸念もある。とはいえ労働時間の短縮策と弾力化はセットで進めるべきである。現状、裁量労働制、事業場外みなし制、フレックスタイム制等の活用は不十分で、改善の余地も大きい。管理監督者の範囲も再検討が必要である。

<労使関係と労働者代表制>

今後、労働組合の組織率低下が進むと予測される中で、最も法整備が必要なのは、労働者代表制の問題である。労働者の多様化・個別化が進む中で、だれが従業員代表となるのか、その決定・組織・権限・認証等、論点は多いが、検討がなされておらず問題である。

<立法過程の変容>

従来の官僚立案の立法から民衆立法へと立法過程が変化していく中で、政治的事情が優先し専門技術性が薄れる恐れがある。弁護士・学識者が立法・法政策へ関心を持ち、専門家集団として声を上げていく必要がある。

パネル討論「『労働国会』その後の展望」

パネルディスカッションでは、パネリストとして諏訪康雄・法政大学大学院教授、佐藤博樹・東京大学教授、小嶌典明・大阪大学大学院教授、和田一郎・弁護士、秋田進・日本経団連労働法企画部会長代理が参加、コーディネーターの中山慈夫・弁護士の進行により、活発な意見交換が行われた。
主な発言は次のとおり。

<改正パート労働法の意義と格差問題>

「正規・非正規の壁はなくし、仕事・貢献度で処遇し格差は縮小すべきだが、改正パート労働法は限定的。法順守のみにとらわれず、従業員が意欲的に働ける環境整備・人材活用の視点が重要」
「人材活用は企業によりさまざまで国が法をもって強制すべきか。法規制を課すことで活用を逆に妨げる可能性もある」

<外部労働市場の活用と人材ビジネスの役割>

「人材ビジネスへの批判が高まっているが社会的・経済的役割は重要」
「求職者行動の変化に対する視点が不足」
「派遣法の時代遅れの面は改善し、行き過ぎ・不足の点は議論し整備が必要」

<労働契約法案の行方>

「内容はかなり絞られた。ただし予見可能性が高まるかは疑問」
「体系的には不十分だが、拙速に詰めるべきではない。労働審判・裁判・企業内紛争処理の解決基準としての機能、契約概念の広まり・アナウンス効果を期待」

<ワーク・ライフ・バランスと労働時間>

「自己管理労働時間制の導入は社会的合意形成ができるかがカギ。冷静な議論には時間がかかる。導入のための環境整備が必要」
「効率的な働き方をめざすような人材育成、マネジメントから取り組むべき」「ワーク・ライフ・バランスが必要。有限の時間の中で効率的に働くことが、社員にもマネジメントにも求められる」
「ワークとライフは対比すべきか。国策的押し付けが感じられる」
「企業の取り組み支援策の検討が必要」

【労政第二本部労働法制担当】
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