日本経団連タイムス No.2864 (2007年6月21日)

提言「豊かな生活の実現に向けた経済政策のあり方」公表

−国民全体の生活水準の向上と今後必要なセーフティネットの基本的な方向性などを提示/政府・与党等に建議


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は19日、提言「豊かな生活の実現に向けた経済政策のあり方」を公表し、政府・与党等関係方面に建議した。提言は、国民全体の生活水準を向上させ、経済的格差の固定化を防ぐための経済政策のあり方、今後必要とされるセーフティネットの基本的な方向等を示すものである。同提言の概要は、次のとおり。

日本の所得・資産の水準および格差の状況と将来への懸念事項

日本の所得・資産の水準について、現時点で利用可能なデータで国際比較を行うと、1人当たり国民総所得はOECD諸国の平均を上回り、1人当たり保有純資産額は世界の上位に位置付けられる。また経済的格差について、所得面での不平等はOECD諸国の平均程度、資産面では国際的に最も平等な国となっている。

しかし、足元の状況や将来を見通せば、手放しでの楽観は許されない。将来への懸念事項として、(1)日本経済の成長力の低下傾向(2)就職氷河期に社会に出た若者の不安定就業化・無業化の問題(3)高齢者世帯、単独世帯、母子世帯の増加等、構造的な要因による生活困窮者の拡大――が挙げられ、これらの課題に適切に対処しなければ、将来的に格差の拡大につながりかねない。

今後の経済政策のあり方とセーフティネットの整備の方向性

より豊かな国民生活を実現し、また経済的格差の固定化を防ぐために、第1に、経済成長力の強化が求められる。そのためには、イノベーションの促進、生産性の向上、内外の需要の創出・拡大等の施策が必要である。さらに地域間格差の是正に向けて道州制の導入が重要課題である。持続的な経済成長は、失業率の改善、業種別・企業規模別・就業形態別の賃金差の縮小を通じ、所得格差の縮小に寄与する。

第2に、不安定就業化・無業化している若・中年層の就業能力を向上させ、経済的自立を図るために、労働市場における需給調整機能の強化と職業能力向上を通じた就労促進型セーフティネットの構築が必要である。また、企業としては、新卒採用に偏らない通年採用の拡大や、中途採用を容易にする仕事・役割を基軸とした賃金制度への転換を図るとともに、政府が打ち出した「人材能力戦略(ジョブ・カード等)」に対して積極的に協力していくことが求められる。

第3に、生活困窮者に対しては十分な福祉政策が準備されなければならない。特に基礎的なセーフティネットである生活保護制度は、細心かつ的確に運用する一方で、就労インセンティブがより一層働く仕組みとすることが不可欠である。

また、高齢化が進む中で、社会保障制度も人々の暮らしを支える重要な役割を有する。ただし、社会保障制度の維持には、多大なコストを要する。過度の所得再分配により、国民負担率の上昇を招くならば、経済の持続的な成長を損なう恐れが大きい。そのため、年金、医療、介護等の社会保障制度を一体的に改革し、社会保障制度全体を経済の身の丈に合ったものにしていくことが重要である。

【経済第一本部経済政策担当】
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