日本経団連タイムス No.2871 (2007年8月9日)

第6回東富士夏季フォーラム 第4セッション

「道州制導入と地域経済圏の確立」

全国知事会会長・福岡県知事  麻生 渡 氏


問題提起

道州制は地方分権を実現するための重要な手段であるというのが、全国知事会の基本スタンスである。知事会が地方分権を主張するのは、次の理由からである。

まず地方の事情として、第1に少子・高齢化など社会構造が激変する中で、全国一律の行政サービスを提供することには無理が生じている。地域の実情に合わせる必要がある。第2に国土政策の大転換である。これまでの「国土の均衡ある発展」から「地域の特色ある発展」をめざすべきだ。第3に地域格差の問題である。東京一極集中は、政策決定機能と情報の集中に起因し、それを地方に分散しない限り解決は難しい。第四に国と地方の二重行政の問題がある。

一方、国の事情としては、グローバル化に伴う国の役割の変化がある。今後は、国際標準やルールに、日本の考え方を反映させることが国の役割として重要である。

こうした国・地方の事情に加えて、日本の民主主義に自己責任、自立の観点を取り入れていくとともに、受益と負担の関係をより明確にする必要がある。

道州制は、グローバル時代に対応するための国の統治機構の大改革ととらえるべきである。中央の機能の見直しとともに、公務員制度改革が不可欠であり、新しい時代にふさわしい国の役割の再定義が必要である。また、地方分権の理論である「住民自治」「補完性の原則」「近接性の原則」に加えて、「多極創造力拠点をつくる」という考え方を取り入れる必要がある。

道州制の課題としては、第1に国民の理解が進まないという点がある。「なぜ導入するのか」「生活や行政がどう変わるのか」について、生活に根ざした説明がなされていない。第2に地域区分の問題がある。GDPで30%以上を占める関東、また東京の扱いが問題となる。第3は制度設計の問題である。まず国と地方の役割分担を決めてから地方の分担(道州と基礎自治体)を決めるべきであり、その際には徹底した権限移譲が必要である。道州の課税自主権と道州間の財政調整に関する制度設計も重要である。第四に地方の政策決定能力の向上が必要である。

道州制導入のステップとしては、まず骨格と枠組みの決定が重要であり、はじめから細部の議論にとらわれるべきでない。道州制は21世紀に合わせた統治機構の改革、国と一体の大改革であり、一斉導入が望ましい。

意見交換−求められる施策、国・道州、基礎自治体の役割分担など

中村副会長

日本経団連では、道州制の導入は地方分権改革や国・地方を通じた行財政改革などを含む「究極の構造改革」と考えている。今年3月の「道州制の導入に向けた第1次提言」では、導入の意義・目的について基本的な考え方を示した。国と地方の役割を明確にし、国の役割を外交・防衛や司法、国家としての競争力が重視される政策など必要最小限に限定し、内政上の役割の多くを地方に委ねるとしている。

今後、区割りの問題や行政・税財政制度のあり方など具体的検討を進めていく。また、国民的議論の喚起と理解促進のため、9月から各地でシンポジウムを開催する。

大久保行政改革推進委員会共同委員長

「第1次提言」では、道州制導入の意義として3つ挙げている。第1に国・地方を通じた統治機構の見直しであり、これなくしては日本の発展はない。第2は地域経営の実践である。日本を分散型国土構造に変えるためにも、自らの地域を、責任を持って経営することが大事である。第3に地域における行政サービスの質の向上である。これは基礎自治体と道州との役割分担にかかわるもので、基礎自治体の行政サービス力を上げなければならない。

宮原21世紀政策研究所理事長

21世紀政策研究所が都道府県知事を対象に実施した「地域経済の活性化に向けたアンケート」では、比較的多くの知事が「道州制は地域経済活性化の重要な方策である」と考えていることがわかる。今後、地域経済活性化の観点から道州制を具体的にデザインしていくことで、道州制への期待もより高まっていくと考えられる。

参加者

まずは地方分権や補完性の原則に基づく基礎自治体、道州、国の役割分担について、共通認識を持つべき。

参加者

道州制の具体的なイメージや理念などを伝えるための良いアイデアはないか。

麻生知事

細部が決まっていない中で、原則について合意を得た上で、説明できる内容を詰めることが大事である。

参加者

住民にとっては、基礎自治体の充実こそが身近な問題である。国、道州、基礎自治体の役割分担を同時に決めないと「国が道州になるだけ」と思われるのではないか。

麻生知事

基礎自治体のサービス提供能力を高めるためには、さらなる市町村合併が必要になるが、実際には難しい。

参加者

首都圏の住民にとって道州制のメリットとは何か。

麻生知事

首都圏の住民にメリットを説明するのは難しいが、一番わかりやすいのは行政コストの削減や負担の軽減であると思う。

参加者

人口、企業の偏在などの問題をそのままにすると、人も企業も少ない道州が出てくるのでは。その場合、道州はまず何をすべきか。

麻生知事

地域の繁栄を考えれば、最も大事なことはグローバル経済に参入することである。

参加者

地方分権改革推進委員会などが同時並行的に検討を行っている。こうした状況をどう見ているのか。

麻生知事

地方分権改革推進委員会は現行の都道府県制を前提に議論しており、2年以内の勧告、3年以内の新分権一括法案提出を予定している。他方、道州制は各地域で検討されているが、これをどう集約して次のステップに進めるかが課題である。

参加者

マクロ的な観点を忘れてはならない。防災や国防を考えれば、一極集中がよくないのは自明の理である。人口分散を図るには、地域に産業を興す必要があり、その観点から税制などの政策を考えるべきである。

また道州制を特定の地域で先行的に実施し、成果を見極めるのもひとつの方法ではないか。

参加者

国、都道府県、市町村が議会を含めてすべて持つ多重構造では、国際競争に勝てるとは思えない。

参加者

地方主権になると国の課税能力、国債の償還担保のための収入が減るので、歳出削減圧力がかかる。地方に移すと同時に民にも移すべき。

参加者

成長のフロンティアは地方にある。企業誘致の方策など、官民が協力して、地方経営モデルをつくる必要がある。

参加者

区割りに際し、必ずしも隣り合わせの地域道州を構成しなくてもよいのではないか。

参加者

道州制によって、道債を発行できれば自主的に資金が稼げるメリットがある。

米倉副会長

道州制がめざすのは、地域に自立した経済圏を確立することで、国民が自覚と誇りをもって地域に根差し、生活できる社会をつくり上げること、国際競争力を向上させることである。
日本経団連は、新しい広域経済圏の中核として事業戦略を展開し、地域社会の発展に貢献していく。

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