日本経団連タイムス No.2872 (2007年8月23日)

労使関係委員会を開催

−「日本企業の人事改革」/説明を聴取し意見交換


日本経団連は2日、東京・大手町の経団連会館で労使関係委員会(加藤丈夫委員長)を開催し、一橋大学経済研究所の都留康教授から「日本企業の人事改革」についての説明を聴取するとともに意見交換を行った。都留教授の説明の要点は次のとおり。

日本企業では、長期にわたり職能資格制度が人事制度の骨格を形成してきた。しかし、1990年代後半以降、その採用率が低下。その原因としては、(1)運用が年功的に陥りがちであること(2)昇格要件があいまいになりがちであること(3)滞留年数を設定していること――等職能資格制度の精神から逸脱する年功的運用が考えられる。

年功的運用を解決するには2つの方向がある。(1)再び職能を真の昇格基準とするため運用を厳格化する、あるいは(2)職務等級制度や役割等級制度等、職能資格制度に代わる新たな制度を導入することである。

人事改革を行った3社の賃金構造を調べたところ、職務等級制度を導入したA社および役割等級制度を導入したB社は、賃金カーブがフラット化し、管理職層の賃金格差が拡大した。他方、合併後も職能資格制度を維持し、合併前の格付けを変えなかったC社は、人事改革後も賃金カーブに変化がみられなかった。

人事制度改革の最終的な到達目標は労働意欲と個人業績の向上である。A社において従業員意識調査を行ったところ、人事改革後、労働意欲と個人業績が上昇したのは管理職層であり、非管理職層に関しては新制度が労働意欲と個人業績の向上に必ずしも寄与していないことがわかった。

ただし、年功制は合理性を失っており、成果主義への道は後戻りできない。今後はそうした問題をどこまで緩和できるかが課題となる。

企業は絶えず変化する事業構造に人事管理を対応させることが求められる。例えば、商社では仲介機能が後退し、設計段階から参画し主要部品をメーカーに提供するなど、中核的機能が強化されている。商社であるB社が人事改革に取り組んだ背景には、こうしたビジネス・モデルの変化があった。

人事改革を推進するに当たっては、自社に適合した賃金制度を選択することが重要である。職能資格制度の改正でも諸課題に対応することは可能であり、人事改革には複数の選択肢がある。

また、人事改革後は、一度後退した従業員の能力開発の再確立が求められる。従来のOJTは機能しにくいことから、今後は高業績を生み出す人材活性化が人事改革のカギを握る。

説明聴取後、職務給・役割給と長期安定雇用との関係等について委員との意見交換が行われた。都留教授は、長期安定雇用を標榜する企業もそれぞれビジネス・モデルは異なるとし、ビジネス・モデルに適した賃金制度の確立が重要であると強調した。

委員からは、役割等級制度を管理職層に導入した自社事例について、配置転換の流動性が保たれるようにする工夫や、運用上の課題等の紹介があった。

同委員会では、今後の賃金制度について議論を深め、年内を目途に報告書を取りまとめる予定である。

【労政第一本部労政担当】
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