日本経団連タイムス No.2879 (2007年10月11日)

「東アジア共同体をいかに構築するか」

−経済広報センターがシンポジウム開催


日本経団連の関連組織である経済広報センター(御手洗冨士夫会長)は9月28日、国際アジア共同体学会の協力を得て東京・大手町の経団連会館でシンポジウム「東アジア共同体をいかに構築するか」を開催した。

■米倉副会長基調講演

シンポジウムではまず、米倉弘昌・日本経団連副会長・経済連携推進委員長が基調講演を行った。この中で米倉副会長は、日本経団連は昨年10月、提言「経済連携協定の『拡大』と『深化』を求める」を取りまとめ、東アジアに重点を置きながら、ASEAN諸国とのEPA(経済連携協定)と、その他の戦略的に重要な国とのEPAを、同時並行的かつ迅速に推進することや、より包括的で質の高いEPAを実現することを政府に働き掛けるとともに、アジアや中東諸国にミッションを派遣し、各国の首脳や経済界の理解を求めてきたと述べ、東アジア共同体の経済的基盤であるEPAについて、日本経団連がどのような姿勢で取り組んできたかを紹介。今後のわが国EPAの展開については、二国間の線的なEPAを多国間の面的なものとし、さらにそれを東アジア中心にできるだけ拡大していく必要があるとの考えを示し、「アジアにおけるEPAのハブとなっているASEANとの包括的なEPA、いわゆるAJCEP(日ASEAN包括的経済連携)協定を締結することが極めて重要」であると指摘した。

その上で米倉副会長は、「東アジア共同体をいかに構築するか」というシンポジウムのテーマに関して、(1)東アジアにおいては生産・物流のネットワークが構築されており、これに伴い経済統合が実態上進んでいるのが現状である。この後を追いかける形でEPAという経済インフラを整備し、さらにこの統合のプロセスを促進していこうというのが今の段階である。そうした中、グローバルに事業を展開する企業として期待することは、東アジアのどこでも同じルールの下で自由にビジネスが行えるようになることである。そのためには、単なるEPAを超えて、EUのように市場統合を実現する必要がある。それには国の枠を越え、地域社会や市民レベルで共有される理念が必要になってくる。将来的にアジアでそのような共通の理念を見いだすためには、今がその模索を始めるチャンスである(2)「東アジア共同体」を考えるに当たって考慮しなければならないのは、米国との関係である。日本にとって外交の基軸は日米関係であり、東アジア地域の発展も米国との関係を抜きにしては考えられない。日本経団連では東アジアで進む経済統合と米国を橋渡しするという意味も込めて、日米EPAの締結に向けた共同研究の開始を提言している。米国からは、昨年11月に「アジア太平洋自由貿易圏」という考え方が提示された。グローバルに事業を展開する企業にとって、共通のルールの下で貿易・投資を行うことができる地理的な範囲は広ければ広いほど良いが、東アジア共通の理念というものを考えた場合、どの範囲までの共同体を考え得るのか、また経済共同体の先にどのような共同体を構想し得るのか、大いに関心が持たれる――との2点を挙げた。

■パネルディスカッション

シンポジウムは続いてパネルディスカッションに移り、セッション1では、白石隆・政策研究大学院大学副学長がモデレーター、伊藤剛・明治大学教授、秦亜青・中国外交学院副院長がパネリストを務め、「東アジア共同体に向けての政治的課題」をテーマに討議を行った。このセッションで、「課題」の中心として論じられたのは日中関係のあり方。「日中枢軸の形成は望ましくない。両国の適度な協調が望ましい」「日本の打ち出している『価値の外交』が教条主義に陥ると、良好な日中関係にとって芳しくない」「リーダーのレベルのみならず国民のレベルでの日中相互信頼関係の構築があってこそ、政治的意思としての両国信頼関係が確立される」「日本から中国への資金援助、人的交流が多元的になることが必要」「日本と中国の各地方との交流の拡大や、環境問題への協働した対応が重要」など、適正な日中関係の確立が東アジア共同体構築に向けてのカギになるとの意見が多く示された。このほかの「課題」としては、コンセンサスの欠落やASEANの結束力の低下、安全保障に関連する諸問題などが挙がった。

セッション2では、浦田秀次郎・早稲田大学教授がモデレーターを、木村福成・慶應義塾大学教授、スティパン・チラティワット・チュラロンコン大学経済学部経済研究センター・国際経済センター所長がパネリストを務め、「東アジア共同体に向けての経済的課題」をテーマに討議を行った。討議の中心となったのはFTA(自由貿易協定)に関する問題。日本のFTAの現状については、「貿易自由化度の低いFTAが少なくない。このような状況が続くと日本は世界におけるFTAの実施競争・デザイン競争に遅れてしまう」「日本は国内産業のあり方や、関税などの国境措置について改革・見直しを進める必要がある」といった指摘があった。また、東アジア経済共同体の形成を視野に入れ、各国が経済成長を実現していくに当たっては、それに必要な人材育成が不可欠であるとの意見も示された。

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