日本経団連タイムス No.2884 (2007年11月22日)

金融制度委員会資本市場部会開く

−インサイダー取引規制の課題とあり方で説明聴取


日本経団連の金融制度委員会資本市場部会(島崎憲明部会長)は1日、東京・大手町の経団連会館に、TMI総合法律事務所の葉玉匡美弁護士を招き、インサイダー取引規制の課題とあり方について聴いた。

わが国の金融商品取引法の基本的な枠組みは、旧証券取引法に規定が創設された20年前からほとんど変わっていない。しかし、当時から現在に至るまでの間に、会社法や独占禁止法などの関係法令が大きく改正されるなどの環境の変化を受け、制度あるいは運用の見直しに関心が高まっていることを踏まえ、検察官としてインサイダー犯罪の捜査に携わっていた葉玉弁護士から、インサイダー規制の問題点と企業の対応について説明を聴き、意見交換を行ったものである。

葉玉弁護士は、インサイダー取引は意図的に行うものより、実際は規定の適用範囲の不明確さのため、意図せずインサイダーになってしまう「うっかりインサイダー」が多いことを指摘。その対策として、(1)重要事項の決定時期についての客観的な基準の設定(2)特定有価証券等の「売買等」から除外する行為の明確化(3)ストック・オプションについてのインサイダー取引の適用除外の範囲の拡大(4)役員・従業員持株会における役職員の加入・拠出金増加の適用除外化(5)自己株式の取得についての適用除外規定の範囲拡大(6)株式の持合における重要事実に該当する範囲の明確化――等の法令改正が考えられるとした。

(2)の「売買等」については、現行法上、譲渡担保権の実行としての売却や流質は「売買等」に含まれ、インサイダー規制の対象となると解されているが、債務不履行時の担保権の実行は、担保機能の保持のため、売買から除外するのが妥当との考えを示した。

また、役員・従業員持株会では、毎月の定額の拠出金で購入する場合はインサイダー取引規制の適用除外となるが、新規加入あるいは、拠出金の増額の際には、規制の対象となることにつき、そうしたケースにおいても利得の認識がない場合がほとんどであると指摘。たとえ重要事実を知っているため客観的にインサイダーとなる場合でも、適用除外規定を設けることが望ましいと述べた。

さらに、M&Aの適時開示の前段階においては、具体的に特定された合併の実施に向けての調査や準備・交渉等の諸活動を会社の業務として行うことが実質的に決定された時点からインサイダー取引規制の対象となるとされているが、具体的にどの時点からインサイダー取引として規制されるのか明確でないと問題を提起。秘密保持契約を締結した段階では、既に合併の実施に向けての準備が行われているため規制の対象となる可能性があり、その一段階前の買収対象企業との接触も、具体的に特定された合併の実施に向けての準備・交渉の段階に入っているといえるため、リスクがあるとし、こうした他者の重要情報をひとたび知るとそれが公表されるまで当該会社の株取引が一切できないのは問題だと説明した。

続いて、現行法における有効なインサイダー防止プログラムとして、(1)社員に禁止期間を周知し(2)チェック体制を整備し(3)重要事実を知る者への代替措置を設けること――を紹介。インサイダー取引をしているという認識がなかった、ということを防ぐために、社内にインサイダー情報管理者を置いて、役職員からの照会を受けたり、逆にストック・オプションの行使時などに注意を喚起したりすることや、ストック・オプションをプットオプションと組み合わせることによって重要事実を知っていても一定条件の下で株を売ったのと同様の効果を得ることができるようにするなどの取り組みが考えられることを示した。

出席者からは、重要事実とされる子会社の事情の範囲が不合理であることや、実現可能性の低い段階で決定とみなされるかどうかが不明確であること、調査が必ずしも迅速に行われていない実態など、実際の調査等の現場に直面した側からの問題点が挙げられた。

【経済第二本部経済法制担当】
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