日本経団連タイムス No.2889 (2008年1月17日)

IPCC・パチャウリ議長と懇談

−地球温暖化問題めぐる諸課題で意見を交わす


日本経団連は、12月18日、東京・大手町の経団連会館で気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のラジェンドラ・パチャウリ議長を招いての懇談会を開催した。当日は日本経団連から猪野博行環境安全委員会地球環境部会長、笹之内雅幸同部会長代行らが出席し、地球温暖化問題をめぐる諸課題について意見交換を行った。

猪野部会長、パチャウリ議長の発言概要は次のとおり。

【猪野部会長】

インドネシアのバリ島で開催されたCOP13(国連気候変動枠組み条約第13回締約国会議)では、交渉のベースとなる科学的知見として、IPCCの報告書が重要な役割を果たしたと聞いている。また、IPCCが2007年のノーベル平和賞を受賞されたことは喜ばしい。

COP13では、ポスト京都議定書の国際枠組みに関する今後の交渉の工程表となるバリ・ロードマップが合意された。日本経団連はポスト京都議定書の国際枠組みとして、各国が地球温暖化防止策を自ら設定し、それを達成するための政策を公約するという柔軟な手法を提案している。このような手法であれば、自国の事情を踏まえた多様な対応をすることが可能であるため、米国のほか、経済成長著しい中国やインドの参加も見込めると考えている。

日本の産業界は、地球温暖化防止に対する強い決意を持ち、10年以上前から具体的な行動を起こして、温室効果ガスの削減に実績を上げている。日本経団連の環境自主行動計画は、日本の産業部門の9割弱をカバーしており、06年度の生産活動当たりのCO2排出量を、1990年度対比14%削減し、排出総量の面でも同5.6%減少している。

日本の産業のエネルギー効率は世界でもトップクラスであり、日本企業は、産業セクター別の取り組み等を通じて削減ポテンシャルの高い途上国企業に省エネ技術を移転している。また、わが国は優れた技術の蓄積を活かし、温室効果ガスの大幅削減に不可欠な革新的技術の開発を推進しており、産業界も協力している。日本経団連としても、引き続き積極的に地球規模の温暖化対策に貢献していく。

【パチャウリ議長】

大気、海洋の平均温度の上昇、氷雪の融解、海面上昇等の科学的データに基づき、地球温暖化が進行していることは疑いの余地がない。1961年当時、海面の上昇率は年間1.8mmであったが、93年には年間3.1mmであり、今世紀末には平均6〜7mも上昇する可能性がある。また、地球の平均気温が1.5〜2.5℃上昇すると、地球上の生物の20〜30%が絶滅の危機にさらされる恐れがある。日本も例外ではなく、2050年までに、米の収穫の40%減少、海面上昇に伴う410万人の生活への影響等の被害を生じる可能性がある。

温暖化対策は、早期に取り組めば取り組むほどCO2濃度安定化が容易になる。具体的には、既存の技術の普及、インセンティブづくりや炭素の価格付けを通じた革新的技術の開発、エネルギーインフラへの投資促進、ライフスタイルの抜本的な改善が考えられ、日本にはこれらの点で世界をリードすることが期待されている。

企業には自ら行動することが求められている。企業による自主的な取り組みは、(1)競争力を維持しつつ温暖化に取り組むことを可能にする(2)温暖化問題への関心を高める契機となる(3)イノベーションを促進する――といったメリットがある。

ポスト京都議定書において実効ある温暖化対策を推進していく上で、先進国には、2020年までに1990年比10〜40%、2050年までに40〜95%の排出削減が求められている。そのためには技術の開発・移転が重要であり、これを推進すべく資金メカニズムやセクター別の取り組みを充実させていく必要がある。その際、民間が主役であることは言うまでもない。「行動の伴わない展望は白昼夢に同じ、展望の伴わない行動は悪夢に同じ」ということわざのとおり、確たるビジョンに基づいた行動が求められている。

【産業第三本部環境担当】
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