日本経団連タイムス No.2893 (2008年2月14日)

「労働経済判例速報」2000号発行記念し座談会

−「今後の労使関係のあり方と労働事件への対応」テーマに、近年の労働判例動向で意見交換


「労働経済判例速報」(日本経団連出版刊、日本経団連労政第二本部編)の2000号発行を記念する座談会が1月24日、東京・大手町の経団連会館で開催された。「労働経済判例速報」は、労働事件に関する争いが顕著化する中、労働判例などに示される「生きた労働法の理論」を迅速に使用者に提供することが重要であるとの認識から、1950年8月に創刊され、今年5月に2000号の発行を迎える。

座談会には、菅野和夫明治大学法科大学院教授、諏訪康雄法政大学大学院教授、牛嶋勉弁護士(経営法曹会議代表幹事)、加茂善仁弁護士(経営法曹会議常任幹事)が参加。日本経団連労働法規委員会の市野紀生共同委員長の司会進行により議論が進められた。「今後の労使関係のあり方と労働事件への対応」というテーマの下、近年の労働判例動向について、過去10年程度の注目判例を振り返りながら、「労働時間および健康管理」「包括的人事権」「就業規則による労働条件変更法理の展開」「有期労働契約や派遣労働をめぐる判例」などの項目について活発な意見交換が行われた。

その中で牛嶋弁護士は、「現在はさまざまな勤務体系があることから、労働基準法に定める労働時間に関する規定では対応できないケースも多くなってきた。勤務体系の実態に合わせて労使双方が納得できるような労働時間管理が必要だ」と述べ、時代の変化に適合しにくくなっている労働法制の存在を指摘した。

加茂弁護士は、近年増加しているセクシュアルハラスメント、パワーハラスメントに関する労働紛争について、「一番大事なことは、問題が発生したら即時に対応すること。そして対応についての情報をすぐに当事者にフィードバックしないと、申告した労働者が不安になって、問題が社外に出るなど、より大きな問題となってしまう」として、個別労働紛争に対する即時対応の重要性を述べた。

また、今年3月から施行される労働契約法に対する評価と今後の労働法改正の展望について、菅野教授は、「労働契約法において、労働契約は労働者と使用者の合意によって成立するという『合意原則』が明確化されたことの意義は大きい。また、個々の実態に応じて配慮することが求められると解される“仕事と生活の調和”という理念が法律に盛り込まれたことで、今後いろいろなことに影響し得ると考えられる」と述べ、労働契約法成立の意義と今後の課題を指摘した。諏訪教授は、「労働契約法成立までの経過が象徴的に示しているが、反対のある意見は法律にまるで反映されず、だれもが反対しない理念的なものが盛り込まれる。このような傾向にあるうちは抜本的な改革が期待できない」と指摘、今後の労働法制のあり方を懸念する見解を示した。

最後に、市野共同委員長は、「厳しい経営環境の中で、多様な価値観を持った労働者に働いてもらっているため、どこかで労働紛争に発展する“隙間”のようなものが発生する。経営者は、労働紛争に発展する前にその“隙間”を埋めていくよう努めていくことが必要」と経営者の責任と役割の重要性を強調し、座談会を終了した。

座談会の詳細は、「労働経済判例速報2000号」(5月10日発行予定)に掲載する。

【労政第二本部労働法制担当】
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