日本経団連タイムス No.2895 (2008年2月28日)

成長創造〜国民一人ひとりが豊かさを享受できる「希望の国」の実現へ

−東海地方経済懇談会で諸課題を論議


日本経団連、中部経済連合会(中経連、川口文夫会長)、東海商工会議所連合会(東海連、岡田邦彦会長)は7日、名古屋市内のホテルで「東海地方経済懇談会」を開催した。懇談会には、御手洗冨士夫会長はじめ勝俣恒久副会長、張富士夫副会長、渡文明副会長、佐々木幹夫副会長、森田富治郎副会長、佃和夫副会長、柴田昌治評議員会副議長、池田弘一評議員会副議長ら日本経団連首脳、中経連会員など約200名が参加。「成長創造〜国民一人ひとりが豊かさを享受できる『希望の国』の実現に向けて」を基本テーマに、民間や地域の活性化に向けた諸課題について意見交換をした。

開会あいさつした東海連の岡田会長は、東海地域の経済情勢について、自動車、工作機械などの製造業が牽引役となり、外需を中心に、全体として堅調に推移しているが、他方、最近の株価の低迷などにより個人消費は伸び悩み、また、原材料価格の高騰により中小企業の経営が苦しい状況にあることから、経済の先行きに不透明感が増しているとの見解を示した。その上で、このようなときにこそ、長期的な視点に立ち、明るい将来を切り開いていく、という強い意志が必要であることを訴えた。そのために東海地域では、ナノテクノロジー・航空宇宙など新産業の育成、産業観光や歴史文化観光の推進、サービス産業の一層の強化、中部国際空港の第2滑走路の早期建設等に取り組んでいると説明した。

続いてあいさつした日本経団連の御手洗会長は、「希望の国」を早期に実現するためには構造改革を強力に推進していくことが不可欠であるとした上で、改革を確実に前進させる具体的プロジェクトの一つとして、道州制の実現に向けた広域経済圏の形成を挙げ、効率的な交通や産業インフラを整備すると同時に、地方への権限委譲や地方財政の自主性向上などを通じ、まずは全国に五つ以上の自立した広域経済圏を形成することをめざすべきだと述べた。その上で、道州制は地方分権改革や国・地方を通じた行財政改革などを実現する「究極の構造改革」であり、地域経済活性化に向けた効果的な手段であるとの考えを示した。

■ 活動報告

第1部の活動報告では、日本経団連側から、張副会長が税制改正をめぐる動向、勝俣副会長が地球温暖化問題に対する取り組み、森田副会長が少子化対策の推進、佐々木副会長が対外経済戦略の推進について報告。「国際的な整合性を踏まえた法人税実効税率の引き下げについて、引き続き関係方面に働き掛けていく」「2009年末を目途にポスト京都議定書の枠組みを決定すべく議論が本格化するが、(1)すべての主要排出国の参加(2)柔軟で多様な枠組み(3)環境と経済の両立――という日本政府の三原則ならびに技術開発を軸に、その実現に向けた取り組みを行っている」「少子化対策が効果を発揮するためには、企業の自主的な取り組みとともに政府による適切な対策も求められる。また、子育てに優しい社会づくりに向けた国民の意識づくりを積極的に展開していくことも必要」「第一に経済連携協定(EPA)が進む中、東アジアとして共同体の理念や目的等についての共通認識形成が必要であり、第二に米国やEUとのEPAや投資協定・租税条約等の締結の推進、第三に国際物流インフラの整備など国内制度の整備・改革が必要」などと説明した。

一方、東海側からはまず、佐々和夫中経連副会長が「道州制移行に向けた取り組み」について報告。中経連では、4日に「道州制の実現に向けて」と題する提言を取りまとめ、国と地方の役割分担を再構築することが道州制実現に向けてのカギであるとの基本認識の下、中央省庁、県、基礎自治体、それぞれの事務・事業を洗い直し、道州制下における新しい役割分担を提起した上で、移譲すべき国の税収額を試算し、その結果、地域偏在性の小さい所得税や消費税を地方税収の中核にすべきとの考え方を示した。

次に高橋治朗名古屋商工会議所副会頭が「アジアとの連携パートナーシップの構築」について報告。9月に国際総合見本市「メッセナゴヤ」が環境へのチャレンジをテーマに、また同時期に「第16回アジア太平洋環境会議」が名古屋で開催される予定であり、環境面でアジアとの連携や情報発信を行っていきたいと述べるとともに、さらに、アジアとの物流・経済交流を推進するためには、スーパー中枢港湾名古屋港のコンテナ機能を拡充し、慢性的な混雑状況の解消を図る必要があることを訴えた。

民間や地域の活性化へ意見交換

■ 自由討議

第2部の自由討議では、東海側から、(1)昨年4月に「ナノ構造研究所」を立ち上げ、このたび、専用の研究棟が竣工した。ナノテクは多岐にわたる産業分野の中核技術の一つであり、今後この研究所を中部の産業振興の中核的存在に育て上げていく(岩田義文中経連副会長)(2)岡崎商工会議所では、岡崎が再び三河地域の中心として復活するために、「岡崎2020ビジョン」を策定し、産業界として取り組むべき項目を取りまとめた。江戸時代の「岡崎二十七曲(まがり)」を整備し、観光文化都市をつくること、先端産業と伝統産業の融合、産学官の連携をめざす「テクノパーク」の建設等をめざしており、行政と一体となって岡崎の活性化に取り組む(伊藤公正岡崎商工会議所会頭)(3)四日市商工会議所では、地域経済の活性化のためには都市機能や購買機能の中心市街地への回帰が必要であるとの考えの下、「まちづくり活性化特別委員会」を会議所内に立ち上げ、「改正まちづくり三法」に基づく「中心市街地活性化協議会」「まちづくり会社」の早期成立に向け、行動を開始した(齋藤彰一三重県商工会議所連合会会長)(4)自動車や航空宇宙をはじめとする幅広い産業の集積が進む中部地域ではこれらを担っていく人材不足が問題となっている。特に、ニーズの高い技術系・技能系人材を確保していくためには、密度の濃い理系教育を実施するとともに産業の実態に即したプログラムを提供できるように高等教育の見直し、教育・訓練機会の提供や多様な働き方の導入などの環境整備が必要である(神尾隆中経連副会長)(5)東海三県においては外国人労働者や技能実習生の増加が著しく、生活習慣の相違による地域住民との摩擦などの問題に対応するため「外国人労働者の適正雇用と日本社会への適応を推進するための憲章」が3県1市で取りまとめられた。少子・高齢化、グローバル化が進む中、外国人材の受け入れ推進は不可欠であり、その環境整備に向けて、行政、企業、経済団体は今後さらに連携を強化していかなければならない(美濃輪忠興美濃加茂商工会議所会頭)(6)観光産業の振興のためには、外国人旅行客取り込みや滞在型観光を推進していくことが重要であり、そのためには、中部地域が有する観光資源を国内外にPRするとともに、より広域的な連携による観光振興が必要となっている。中経連では東海、北陸、信州の9県の自治体などとともに「中部広域観光推進協議会」を結成し、活動している(木下栄一郎中経連副会長)――などの発言があった。

これに対して日本経団連側からは、「わが国の産業競争力の維持・強化のためには科学技術を基点としたイノベーションの創出が重要であるが、イノベーション創出をめぐる国・地域間の競争は激化している。日本経団連ではわが国の科学技術政策を精査し、ナノテク分野を含めて今後強化すべき施策を提言として取りまとめ、関係方面に働き掛けていく」(柴田評議員会副議長)、「地域経済の活性化のためには、地域の現状を客観的に分析し、危機感を共有した上で、自らの手でグランドデザインを描くことが重要である。その過程で企業が果たすべき役割は非常に大きく、特に経営者が地域経済の発展の担い手として活躍することが期待される」(渡副会長)、「現在、日本経団連では、道州制に関する具体的な制度設計について検討を進めており、基幹的制度のあり方、国と地方の役割分担のあり方について、来月にも中間取りまとめを行う予定である」(池田評議員会副議長)、「イノベーションの担い手となる高度人材育成はわが国にとって喫緊の課題であり、大学と産業界が緊密な対話を行い具体的な行動に結び付けていくことが重要である。日本経団連では高度IT人材や理工系博士の育成などに取り組んでいる」(渡副会長)、「わが国において外国人がその能力を十分発揮し、地域コミュニティーの中でも快適に生活していくための環境整備は不可欠である。日本経団連ではその体制整備として、外国人材受け入れに関する基本法の制定などを提言している」(佐々木副会長)、「日本経団連でも広域的な観光振興の重要性を訴えている。中部国際空港を中心に、飛騨山脈や、立山・黒部アルペンルートまでを結ぶ広域的観光ルートの実現により、海外からの旅行者が増加することを期待している」(佃副会長)などと応じた。

御手洗会長、政策評価に基づく政党への自発的政治寄付を呼び掛け

■ 総括

総括の中で御手洗会長は、政策本位の政治の実現のために、日本経団連が行っている政党の政策評価に基づく政党への自発的な政治寄付を呼び掛けるとともに、企業倫理の徹底を訴えた。

最後に川口中経連会長が閉会あいさつを行い、懇談会の基本テーマである「成長創造」を実践するために、道州制への移行、環境問題への対応、社会資本の一層の整備、人材育成などの着実な実現が必要であると述べた上で、とりわけ道州制の実現に向けては、今年をその実現に向けた土台を築く年と位置付けるとの考えを示した。

◇◇◇

懇談会に先立ち日本経団連首脳は、総合自動車部品メーカーであるアイシン精機(刈谷市)を訪問し、創意と工夫に富んだ工場の生産ラインや企業内保育施設「アイマミーズサポート」を視察した。

【総務本部総務担当】
Copyright © Nippon Keidanren