日本経団連タイムス No.2901 (2008年4月10日)

21世紀政策研究所が第54回シンポジウム

−労働市場改革のあり方を議論


日本経団連の21世紀政策研究所(御手洗冨士夫会長、宮原賢次理事長)は3月21日、第54回シンポジウム「労働市場改革〜リアリティーのある改革に向けて」を東京・大手町の経団連会館で開催した。また同日、シンポジウムと同名の報告書を21世紀政策研究所のホームページ(URL=http://www.21ppi.org/)にも公開し、わが国における労働市場改革のあり方について、広く議論を提起している。シンポジウムでは、大阪大学大学院の小嶌典明教授(同研究所研究主幹)と獨協大学の阿部正浩教授が研究報告を行った後、リクルート斡旋カンパニーの鈴木敦雄プランニングディレクターが、それぞれの報告内容についてコメントを行った。当日は、日本経団連の企業会員・団体会員、政府関係者など約100名が出席し、講師の説明に熱心に耳を傾けていた。

小嶌教授は、「労働法制の現状と課題〜公務員制度改革も展望して」と題して報告を行った。同氏は、「現実を度外視し、法律の力で物事を動かそうとしても無理がある。労働市場改革をリアリティーのあるものにするためには、企業には何ができ、何ができないのかを明確にする必要がある」ということをまず強く訴えた。その上で、改正パートタイム労働法や労働者派遣法等の問題点、さらに非正規雇用の処遇改善などについて報告した。また、多くの労働関係法令の適用を除外され、必ずしも実情を十分に理解しているとは言い難い公務員がそうした法律の起案等を行っていることに疑問を呈し、公務員の人事制度改革の必要性に言及した。

続いて阿部教授は、「日本企業の人事制度改革とその帰結」と題して報告を行った。多くの日本企業が成果主義的な人事制度を導入し始めて約10年になる。その導入実態や改革理由、賃金制度改革の具体的な内容などについて、同研究所は昨年末、日本経団連の企業会員を対象にアンケートを行った。阿部氏は、この結果などをもとに、日本企業の人事制度改革について解説した。また、成果主義的人事制度改革と企業業績の向上との関係について、今回の分析では明確な効果は見られなかったが、この要因としては、(1)必ずしも業績を高めるために企業が成果主義を導入したわけではない(2)現実には成果給になっていない(3)低業績者の入れ替えが起こらない(ソーティング効果)――などを指摘した。

最後に鈴木氏が、両報告に対するコメントを行った。鈴木氏は、昨今の労働市場改革をめぐる世の中の議論は、非常に観念的な論調が多く、何となく空気に流されているような意見が支配的になっているように感じると述べ、そうした中で、本日の報告はともに事実に基づいた冷静な分析が行われていた点を、まず指摘した。その上で、小嶌教授の報告に関連して、労働関係法令の公務員への適用除外と同様の考え方を、むしろ、特定の条件下で民間企業の労働者へも認めるべきではないかと指摘した。また、阿部教授の報告に関しては、成果主義といっても職能主義的な要素、あるいは年功的な要素が組み合わさっているのが実情であり、賃金以外にも従業員の労働意欲を引き出す制度が必要ではないかとコメントした。

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