日本経団連タイムス No.2904 (2008年5月15日)

ルセフ・ブラジル文官長と懇談

−ブラジル経済の現状と今後の方向などを聴取


日本経団連は4月23日、東京・大手町の経団連会館でブラジル連邦共和国のジルマ・ルセフ文官長との懇談会を開催した。日本経団連からは槍田松瑩副会長・日本ブラジル経済委員長らが出席した。ルセフ文官長の発言の概要は次のとおり。

ブラジルは、新たな経済発展サイクルに入りつつあり、(1)安定した高いGDP成長率の達成(2)貧困層の社会参加による一層公平な富の分配(3)成長加速化計画(PAC)による特にインフラへの集中的な投資――をめざしている。

ブラジルの持続的経済成長には、通貨の安定、対外債務に対するもろさの解消、財政収支の均衡等の特徴がある。インフレ率は4%前後で安定し、ブラジルはかつての高インフレ文化と完全に決別した。2007年の貿易、経常収支はそれぞれ400億ドル、137億ドルの黒字となった。外貨準備高は約2000億ドル、外国直接投資(FDI)は今年2月現在で約365億ドルを記録した。着実なマクロ経済運営の実績により現政権下でのカントリー・リスクは安定的に推移しており、サブプライム問題でも金融業界は影響を一切受けなかった。

現政権は「より公平な富の分配と貧困の撲滅」によって経済成長と安定性を持続しようとしている。社会政策では、生活保護制度(ボルサ・ファミリア)による富の公平な分配と貧困層の市場参加の実現により、1000万人が絶対貧困層から脱出し、2000万人が低所得層から中所得層に近づいた。

国内の資本市場は約1000億ドル規模になり、証券市場も近年めざましい成長を遂げている。また、約160万人が新たに正規に就業した。こうした変化の結果、所得が向上し、消費市場は着実に成長している。

PACにより、輸送やエネルギーのボトルネックを解消しようとしている。その最優先分野は社会基盤や都市基盤の整備である。道路整備計画は、民営化を通じた既存道路の運営と整備、入札による新規道路の建設の2本柱からなる。サンパウロ州では7月に全長約637キロ、事業規模約20億ドルの幹線道路の複線化事業の入札を行う。また、全長4000キロの道路の民営化も計画している。鉄道では注目のサンパウロ‐リオデジャネイロ間の高速鉄道の入札を近々予定しており、技術的な内容を公平に開示したい。電力部門では約1万8000メガワットの発電や送電線の入札がある。石油・ガス部門はペトロブラスが取り扱うが、設計、機材の供給、工事等51件の入札を行うほか、再生可能エネルギー関連のパイプラインの建設プロジェクトも存在する。

バイオエタノール分野も確実な成長を遂げている。ブラジルの自動車の85%以上がエタノールとガソリンの混合比を自由に変えて使用できるフレックス車である。ブラジルが使用するサトウキビは、エタノール生産の原料別エネルギー収支で、小麦やトウモロコシより明らかに優位である。また、サトウキビの作付面積は、全国土の約0.4%、全農地の1%以下に限られる。さらにサトウキビの搾りかす(バガス)のセルロースを原料とする第二世代のバイオエタノールの生産に優先的に取り組むことで、食糧とバイオエタノールの生産を完全に両立できる。ブラジルではバイオ燃料の普及により農業はもちろん関連する産業が成長し、経済発展がもたらされることを強調したい。

【国際第二本部中南米・中東・アフリカ担当】
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