日本経団連タイムス No.2907 (2008年6月5日)

第8回総会来賓挨拶


抜本的税制改革が不可欠/額賀財務相

先進国を中心とした世界経済の見通しは金融市場の混乱によって、昨年夏以降芳しくないが、他方、アジアをはじめとした新興市場国が堅調な成長を維持しており、国際経済社会にとって大きな貢献を果たしている。その意味で中国をはじめとする新興市場国の持続的な成長を確保する方策について国際的に議論していく必要があるし、今後ますますわが国がアジアとともに発展し、相互に関係を保っていくことが重要になる。

人口減少の中で成長を続けていくためには、労働力の確保が極めて重要である。このためには就職氷河期に就職機会を逸した若者の正社員化を促進し、女性や高齢者の労働参加を進めるとともに高度な知識・技術を持つ外国人の活用も避けては通れない課題である。

今年7月には洞爺湖サミットが開催される。わが国は温室効果ガス削減に真摯に取り組む姿勢を対外的にアピールし、ポスト京都議定書の枠組みづくりの指導的役割を担う必要がある。今後温室効果ガスの排出を大幅に削減するためには、既存技術の改良だけではなく、抜本的な削減を可能とする革新的な技術開発が不可欠である。環境分野の進んだ技術など、日本の強みをさらに伸ばすことにより、環境と共生しながら成長を続けていけるように努力をしていく必要がある。

いま問題になっている高齢者医療制度については、制度が実際に運用されるにあたって、どのような問題が生じているか、丹念に、集中的に点検を行っているところである。国民が納得できる制度にしていくために、低所得者に対する負担などについて実態をよく把握した上で、対応策を検討する必要がある。しかし、現役世代と高齢者の負担の公平や、すべての国民に関わる医療保険制度の持続可能性の確保という理念や方向性については、しっかり守っていかなければならない。社会保障全般について秋の税制の抜本的改革時に、年金、医療・介護など総合的な議論を行い、中長期的に、高齢者に安心を、現役世代・若者に希望を与えるような制度設計を再構築する必要がある。

依然として財政は厳しい状況にあり、国・地方を合わせた長期債務残高は、2008年度末で778兆円になると見込まれ、主要先進国の中では最悪の水準となっている。厚生労働省の試算によれば2025年度には社会保障給付が141兆円に増大する。今後増加する社会保障をはじめとする必要な公的サービスの持続可能性を確保するため、また減少していく子や孫の世代に過大な負担を先送りしないためにも、極めて不健全な財政事情を可能な限り是正していかなければならない。また、これからの社会保障を持続可能な制度にするために社会保障給付や少子化対策に要する費用を、あらゆる世代から広く公平に分かち合う観点に立って、消費税を含む税体系の抜本的な改革が不可欠である。来年度予算の概算要求においては無駄を省き、成長に結び付く分野には歳出して良いが、歳出面において徹底した改革を行い、厳格に歳出歳入一体改革を進めていかなければならない。

(文責記者)

人口減少の試練を克服へ/大田内閣府特命担当相

日本経済はいま難しい局面に差しかかってきている。最大の懸案事項である米国経済については、景気対策の戻し減税が実施されているが決して楽観視はできない。日本やアジアからの米国への輸出が鈍化し、それが日本からアジアへの輸出の鈍化につながるというように、直接と間接の両方のルートから米国経済減速の影響が出てきている。

人口が減少していく中でわが国がいかに成長していくかという点で、次の3つの面から強い危機感を持っている。一つはGDPの7割を占めるサービス産業の生産性が低いこと。二つ目にオープンな経済社会システムが構築されていないこと。EPAや対外直接投資の低さのみならず、空港の利便性、金融資本市場などグローバル化への不可欠な経済インフラの競争力が十分ではない。三つ目には人材が十分に活かされていないこと。労働力が減少するといわれる中、180万人ものフリーターが存在している。これら3つの課題に取り組むための福田内閣における成長戦略を6月の経済財政諮問会議で取りまとめることになっている。

人口が減るということはわが国にとって大きな試練であるが、第2次世界大戦後や石油危機の時も日本はこれを乗り越えてきた。そしてこれが日本の強さだと思うが、試練に直面するたびに驚くべき柔軟性を発揮、これをばねに次の飛躍のステージをつくっていく。石油危機の時もそれを梃子にして世界最高の省エネ技術をつくった。日本経済は必ずや困難を乗り越えることができるだろう。

ただ、これらはいわば外的要因から起こったショックであり、否応なく改革を迫られた。その点、人口減少は内なる危機であり、静かにじわじわと進行していく。それだけに危機感を共有して改革を進めていかなくてはならない。そこで経済界の皆様の協力と支援が必要と考えている。

最後に人材を活かすという観点から、ジョブ・カード制度についてお願いしたい。これは主に企業内で行われてきた職業訓練を社会全体に広げる制度であり、職業能力開発の大きな転換点になるものと考えている。これを契機として、働く意欲のある人すべてに職業訓練の機会が与えられるような社会にしていきたい。同制度は、日本経団連の支援により今年4月にスタートしたが、これを機能させるためには職業訓練を受け入れる企業の拡大が不可欠である。

(文責記者)
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