日本経団連タイムス No.2909 (2008年6月19日)

ILOの機能強化に関する宣言など採択

−第97回ILO総会閉幕


スイス・ジュネーブで開催されていたILO(国際労働機関)の第97回総会が、13日閉幕した。今回の総会では、今日のグローバル化経済において、ILO加盟各国がディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する上で、ILOの機能をどのように強化していくかの討議が行われた。その結果は「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」としてまとめられた。このほか、地方における貧困減少のための雇用促進に関する討議や、雇用と生産性を促進するための技能開発についての討議が行われた(討議結果の詳細については、ILO本部のホームページを参照のこと)。
各議題の主な討議結果は次のとおり。

■ 条約勧告適用委員会

各国が批准した条約の実施状況が不十分なもののうち、特に問題と認識される24の個別案件について審査が行われた。
このうちの一つとして、日本の公務員、特に消防職員の団結権制限が結社の自由と団体交渉権条約(ILO第87号条約)違反であるとして個別審査の対象となった。委員会は、日本政府がこれまで公務員制度改革の中で、労働基本権について関係労使との対話を通じて進めてきたことを評価した。一方、消防職員の団結権付与については、さらなる進展を求め、近い将来明確なかたちで進捗状況について報告することを日本政府に要請した。
また、昨年に引き続き、住民に対する軍事政権による強制労働が問題になっているミャンマーについて、特別セッションというかたちで審査が行われた。昨年2月、ILOとミャンマー政府間で、強制労働被害者が報復を恐れることなく救済を求められるメカニズムが合意されたものの、有効に機能していないことから、委員会は同政府に改善を求めた。また、サイクロン被害からの復興のための労働力の動員が強制労働とならないよう同政府に要請した。

■ 第4議題「貧困減少に向けた地方における雇用の促進」(一般討議)

発展途上国の貧困層のほとんどは都市から離れた地方に暮らしている実情を踏まえ、地方の貧困減少のために必要な開発政策、雇用政策、教育訓練などについて討議を行い、報告書を取りまとめた。報告書は、地方の貧困減少のためには、主要産業である農業の活性化が不可欠であること、農業・非農業を問わず、雇用創出が重要であることを強調している。また、そのためのマクロ経済政策、基礎的教育や職業訓練、公衆衛生・運輸・ITなどのインフラ整備、社会的保護と社会保障の拡充などの施策の必要性をうたった。さらに、その実施にあたっては、社会的対話と政府の良き統治が不可欠であると結論付けている。
報告書とは別に、労働側からの強い要請により「世界食料危機におけるILOと政労使の役割」という総会決議を採択した。

■ 第5議題「生産性向上、雇用成長と発展のための技能」(一般討議)

雇用と生産性の双方を増加させるためには、技能開発がいかにあるべきかなどについて討議が行われ報告書がまとめられた。報告書は、技能開発を、企業の生産性や持続可能性、ならびに労働者のエンプロイアビリティー(雇用可能性)を向上させるために非常に重要な要素であると位置付けた。こうした好循環を実現するため、省庁間の連携や企業と教育機関の連携の必要性を指摘するとともに、教育から労働市場へのスムーズな移行のため、労使が重要な責任を果たすべきであることなどを述べている。

■ 第6議題「グローバル化において加盟各国を支援するためのILOの機能強化」(一般討議)

来年のILO設立90周年を目前にして、グローバル化が進む今日においてILOの活動を再定義し、各国でのディーセント・ワーク促進のためにILOが果たすべき役割などを示す「公式文書」策定をめざして討議が行われた。
グローバル化は経済成長や雇用創出に好影響を与える一方、所得格差や保護が十分でない労働を生み出しており、その中でILOは、(1)雇用の創出(2)社会的保護の拡充(3)社会的対話の促進(4)労働における基本的原則と権利の推進――を活動の柱とすることが確認された。また、各国がディーセント・ワークを推進するために、ILOが各国のニーズを的確に把握し、積極的に技術協力を行うことが重要であると結論付けられた。
討議の結果は「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」という名の文書にまとめられ、総会全体会議で採択された。

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ILO総会期間中の12日、アジア太平洋経営者団体連盟(CAPE)の代表者が、国際労働組合総連合アジア太平洋地域組織(ITUC―AP)と定例懇談を行い、地球温暖化の雇用への影響について意見を交換した。

【労政第二本部国際労働担当】
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