日本経団連タイムス No.2912 (2008年7月10日)

最近のトルコの政治経済情勢と日本トルコ関係で説明を聴く

−日本トルコ経済委員会総会


日本経団連は6月19日、東京・大手町の経団連会館で日本トルコ経済委員会(梅田貞夫委員長)の2008年度総会を開催した。総会では来賓の松谷浩尚・前イスタンブール総領事から「最近のトルコの政治経済情勢と日本トルコ関係について」と題して説明を聴いた。松谷氏の講演概要は次のとおり。

■ 内政

今年3月、イスラム主義色が濃く、政教分離に反した活動が見受けられるとの理由で、トルコ検察当局が、政権与党である公正発展党(AKP)の解党ならびにエルドアン首相をはじめとする党指導部の公民権の停止を求め、憲法裁判所に提訴した。しかし、昨年の総選挙でAKPが47%もの得票率を獲得し議会の安定多数を確保するなど、エルドアン政権は国民からの高い支持を後ろ楯としている。憲法裁判所および建国以来政権に対して常ににらみをきかせてきた軍部がこれを無視することは難しい。さらに、来夏に予定されている地方首長選挙では、現状では、間違いなく与党AKPが大勝するとみられており、たとえ、憲法裁判所が訴えを認める判断を下しても、エルドアン首相らの政治生命を絶つまでの結果には至らないだろう。
トルコの最大の不安定要因は国内治安である。トルコの東部・南東部では、クルド労働者党(PKK)による戦闘状態にあるが、PKKに対して好意的な米国の中東戦略も絡んで、この紛争問題は、国内問題の枠を超えて複雑化している。PKK問題が近い将来に解決する目途は立っておらず、トルコの将来にとって潜在的な脅威になり得る。

■ 外交

トルコの外交上の課題の一つは、EU加盟問題である。加盟の見込みのいかんに関わらず、国家の求心力維持やシビリアン・コントロールの確立のため、トルコにとって、EU加盟推進は必要との指摘もある。歴史的に、地理的な位置関係や宗教・文化の違いなどを理由として、トルコはヨーロッパではないとされてきたが、現在では十分に国力をつけた大国へと成長を遂げた。しかし、今後もEUはトルコに対して多くの課題の解決を要求するとみられ、近い将来のEU加盟実現は難しいだろう。
他方で、近年、国際会議の主催国を務めるなど、周辺国との外交関係における、トルコの重要度は増している。外国要人のトルコ訪問の増加に加え、ギュル大統領ならびにエルドアン首相は諸外国を精力的に訪問し、非常に積極的な外交を展開している。

■ 経済

トルコは、経済危機からの回復を実現した2002年以降、高い経済成長率を維持している。トルコの経済界は、現政権を積極的には支持していないが、政治的安定を望む観点から与党を支持している。特に、近年、イスタンブールの経済団体の発言力は増しており、あらゆる政策に対して、活発な提言活動を展開している。

■ 日本トルコ関係

日本トルコ経済関係の拡大に向けて、合同経済委員会の開催などを通じ、日本経団連は歴史的に重要な役割を果たしてきた。現在、大型のインフラ整備プロジェクトの実施において、トルコは日本との協力に期待を寄せている。
他方、トルコは親日国と言われてきたが、日本のみを特別な友好国として認識しているわけではない。日本側がトルコに対して抱いている強い過信を改める必要がある。親日家で知られたオザル首相の在任時代と異なり、日本通の政界関係者に乏しい現政権の日本への関心は低く、マスコミ・学界にも、親日家・知日家は見当たらない。
さらに、最近では、トルコへのインド・中国・韓国企業の進出の活発化に伴い、日本の知名度は著しく低下した。日本の知名度回復、日本に対する理解増進に資する、費用対効果の高いPR活動の推進に向け、抜本的な見直しが求められている。トルコにおける日本への関心の向上をめざし、日本経団連には今後も日本トルコ関係強化の推進役を果たしていただきたい。

【国際第一本部欧州・ロシア担当】
Copyright © Nippon Keidanren