日本経団連タイムス No.2912 (2008年7月10日)

第7回社史フォーラム

−社史編纂の技法など学ぶ


日本経団連は2日、東京・大手町の経団連会館で「第7回社史フォーラム」を開催、全国から社史編纂担当者など約100名が参加し、社史は産業史の検証資料としてどのように役立つか、社史編纂の実際例はどのようなものか、社史編纂の技法や留意点とは何かなどについて学んだ。

「産業史の検証資料としての社史―実例と利用者からの要望」

一橋大学大学院商学研究科教授・橘川武郎氏

同フォーラムでは、はじめに「産業史の検証資料としての社史―実例と利用者からの要望」と題する一橋大学大学院商学研究科教授の橘川武郎氏の講演を聴いた。橘川氏は、産業史「日本電力業発展のダイナミズム」を著す際、各電力会社の社史をどのように活用したか、社史から何を学んだかを説明。日本の電力産業の歴史は7つの時代に区分できるが、何社もの電力会社の社史を併せて読むことで、それぞれの時代の特徴を把握することができ、経営学上の知見を得ることができたと述べた。橘川氏は、社史はこうした経営学研究の重要な資料になるのはもちろん、会社の広報活動にとって要ともいえる役割を果たすほか、社内の研修に役立ち、社内にイノベーションを起こすための資源の宝庫にもなるなど、会社の武器として使えると説明。さらには、就職活動や同業他社の研究においては、会社を知り、研究するための最も有効なツールであることや、外国人が日本社会を理解する上での情報が凝縮されていること、地球温暖化防止を考える上で、省エネのビジネスモデルの経験を提供するなど、社会の側にとっても有用なものであることを強調した。

橘川氏はまた、社史にこうした効用が認められるということは、裏を返せば社史とはそうした要請に応え得るものでなければならないことを指摘。現在、学会と社史の世界は必ずしもスムーズにつながっておらず、ギャップが認められるので、社史編纂者は、社史のユーザーとして研究者も視野に入れて社史を作成してほしいと語った。さらに、社史がそうした要請に応えるためには、2つの重要なポイントがあり、その一つとして、会社にとって不都合な事実であっても、公知の事実については会社側の公式見解をきっちり書くべきであり、そうしないと、他の部分の記述の信用度が落ちること、二つ目として、同業他社との競争の状況や同業他社と比べた自社の特徴を書くべきであり、そうしないと、真の会社の姿が描けないことを挙げた。橘川氏は最後に、社史の利用者もまた、賢くなるべきであると語った。

「『日本郵船社史 創立100周年からの20年』―プランニングから配布まで」

日本郵船社史編纂室長・松田俊男氏

続いて講演した日本郵船社史編纂室長の松田俊男氏は「『日本郵船社史 創立100周年からの20年』―プランニングから配布まで」と題し、初任務で初体験ながら、全く一人で社史を執筆・編纂した経験を披露した。

この中で松田氏は、(1)社史は、対象とする期間が長くなればなるほど、データが少なくなるなど編纂が難しくなる(2)通常の生活にとっては、今と近未来とが重要だが、社史にとっては過去からの時間のどの断面も重要である(3)最初に重要なのは基本構想であり、何のためにつくるのか、読者はだれか、盛り込む内容は何か、だれが材料を提供し、だれが仕上げるのか、どんな体裁にするのか、などについておおよそのピクチャーを描き、制作にかかわるものがそれを共有する必要がある(4)社史づくりを命ぜられるとき、具体像・イメージがないのがほとんどであり、担当者が設計しなければならない(5)基本構想が決まれば、スペックも決まってくる(6)A4判としたのは、今日の官庁出版物の主流サイズであり、掲載できる情報量も多く、ページを使える自由度が高いからである(7)グラフを多用したが、グラフをわかりやすくするためオールカラー印刷とした(8)人件費コスト削減のため、煩雑な作業は極力避けるようにした(9)フォントは、老眼の人も読める最小限のものとした(10)読みやすくするため2段組みとしたが、そのために発生する困難さは電子的手段で解決可能である(11)ページ割を自分でつくれば、打ち合わせコストが削減できる(12)一人でつくると面倒臭くないし、副次効果としてコストが削減できる(13)社史用紙は生産時期が限られるため、いつでも入手できるものではないことを知っておくべきである(14)社史は内容が一番大切であり、技術は二の次である(15)工程表をきちんとつくる必要がある(16)編纂を外注しない場合、PCのハード・ソフトの能力は高いものが必要である(17)社史編纂については社内のサポートは、あまり当てにできないと考えるべきである(18)完成近くになっての書き直しは、事実が大幅に違うなどといった場合以外行わないのが賢明である(19)社史は会社の自叙伝であり、歴史の中で会社がどう変わっていったかを示すものであるから、自分なりの歴史観を持って編纂に当たるべきである(20)集まってくるデータには信頼できないものも多く、OBの証言も必ずしも正確でないので、チェック能力が必要である――などと述べた。

「社史編纂の技法と留意点―企画から刊行まで」

東京大学大学院経済学研究科教授・武田晴人氏

フォーラムの最後には東京大学大学院経済学研究科教授の武田晴人氏が「社史編纂の技法と留意点―企画から刊行まで」と題し、講演した。武田氏は、(1)何からはじめればよいのか(2)資料はどうやって集めるか(3)社史に必要な条件は何か(4)どうすれば社史を客観的に書けるか(5)資料編の年表や索引はどうつくるのか――について説明。このうち何からはじめればよいのかについては、人集め、情報集め、資料集めから着手すべきであり、経験者の話を聞いたり、外部の知恵を借りるのが得策と述べた。

資料の集め方や社史に必要な条件などを説明

資料はどうやって集めるかについては、資料は足で探す=「現場に行って自分で探し、人頼みにしない」「見つけた資料には保存の措置を講じる」「『収穫なし』に慣れる」、資料整理には手間をかけない=「分類などあらかじめ考えるのは無駄が多い」「後からいくらでもつくり直せる目録をつくる」――と説明した。

また社史に必要な条件は、網羅性と、話題性・ストーリー性という二律背反する事項の両立であると述べ、まず構想を練る前に簡単な年表や連続する経営データを整備し、その上で物語のある社史、歴史的な評価に耐え得る社史をつくるべきであると指摘した。

客観的な社史をつくるということについて武田氏は、(1)最低限、実際起こったことに対する正確さを第一とすること(2)そのためには書き直しをいとわず、時間をかけること(3)わかりやすさを心がけ、仲間内だけのことばの使用を避けること(4)客観性は、調べて書く誠実な書き手にはおのずとついてくる(5)捏造や偽造は当然不可(6)思い込みを捨て、資料と対話するなど事実を確認する(7)だれにも文句のない叙述などあり得ず、書き手の解釈があってよい(8)証拠立てて主張することが、客観性を担保する――と強調した。

資料の年表や索引はどうつくるのかに関しては、最終的に社史の品質を上げるものであり、その作成はおろそかにすべきでないと述べた上で、本文ときっちり照合すること、割に合わない仕事だが、丁寧につくれば必ず結果がついてくることを肝に銘ずべきであることなどを指摘した。

【社会第一本部情報メディア担当】
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