日本経団連タイムス No.2918 (2008年8月28日)

2008年春季労使交渉の概況

−一服感ある企業収益を反映/賞与・一時金は額・率ともマイナス


2007年末の日本経済は、企業収益が高水準ながらも増勢に一服感がみられ、さらにサブプライムローン問題に端を発する世界的な金融資本市場の混乱の継続、アメリカ経済減速の長期化懸念、原燃料価格の高騰、ドル安円高など、景気の下振れリスクを抱えていた。このような状況の下、日本経団連は春季労使交渉における経営側の基本スタンスとして2008年版「経営労働政策委員会報告」を発表した。

同報告では、日本企業がグローバル競争に打ち勝ち労使双方にとってプラスの結果を得るためには、日本型経営の根幹をなす日本型雇用システムについて維持すべき点と変革すべき点があるとの考えを示した。この基本認識に基づき、賃金をはじめとする総額人件費の決定については、市場横断的なベースアップは既に過去のものであり、自社の支払能力を基準とし判断すべきであることを強調するとともに、日本的経営の強みである労使の協力・信頼関係と円滑なコミュニケーションを活かし、生産性向上策を導入することにより付加価値額を高めていく努力を労使双方に求めた。

他方、連合は「2008年春季生活闘争方針」において、賃金の底上げと格差是正に結び付く賃金改善、非正規労働者の処遇改善や正社員化、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた労働時間の短縮・割増率の引き上げなどに取り組むこととした。

賃金に関する各労働組合の要求を概観すると、「ベースアップ」として要求を行う組合もあったものの、定期昇給分(賃金体系維持分)、ベースアップ、諸手当改定などを包含する「賃金改善」として要求を行う組合が多く、また、一部では企業業績の悪化を理由に要求を見送る組合もあった。そのほか、連合の方針を反映し、長時間労働の是正の観点から時間外・休日割増率の引き上げを求める組合が多くみられた。

このような労働組合の要求に対し、経営側の対応はさまざまであったが、賃上げに関する妥結結果(日本経団連調べ、最終集計、全産業平均)をみると、大手企業の妥結額平均は6271円、アップ率1.95%、中小企業の妥結額平均は4184円、アップ率1.66%であった。額・アップ率ともに大手企業では4年連続、中小企業では6年連続で前年を上回っているものの、昨年との比較では微増にとどまっており、賃金改善等の水準についてはおおむね昨年と同程度とした企業が多かったといえる。

また、時間外・休日割増率の引き上げに対しては、「現状どおり」もしくは「継続協議」と回答した企業がほとんどであった。

他方、今年の夏季賞与・一時金の大手企業の妥結結果(日本経団連調べ、最終集計、全産業平均)は90万9519円、前年夏季比マイナス0.08%となった。金額としては2年連続で90万円台の高水準を維持したものの、額・率ともに02年以来のマイナスとなった。この傾向は、一服感のある企業収益を反映したものであり、短期的な業績は賞与・一時金に反映するという考え方が各企業に定着していることを示している。

人事・賃金制度や労働条件など、幅広いテーマ論議の場に

また、賃金以外の項目である次世代育成支援にかかわる施策、裁判員制度への対応、労働時間短縮にかかわる施策、キャリア開発支援など、従業員の働き方に関する事項が今次交渉で取り上げられ、労使協議が行われた。このように、昨今の春季労使交渉は、賃金のみならず人事・賃金制度や労働条件にかかわるさまざまなテーマを幅広く論議する場という位置付けが定着している。

【労政第一本部労政担当】
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