日本経団連タイムス No.2926 (2008年10月23日)

「最近の国際経済の動向と日本経済の今後の成長戦略」

−経済政策委で説明聴く/深尾・日本経済研究センター理事長から


日本経団連の経済政策委員会(奥田務共同委員長、畔柳信雄共同委員長)は9日、深尾光洋・日本経済研究センター理事長から、「最近の国際経済の動向と日本経済の今後の成長戦略」について説明を聴いた。

深尾理事長はまず、米国金融危機拡大のこれまでの経緯について説明。「2007年6月にベアー・スターンズ傘下のヘッジファンドにおける証券化商品の損失が明るみに出た後、複数の金融機関において相次いで損失が公表され、金融不安が広まったが、FRBによる金利引き下げや流動性供給、さらに米政府による減税などの景気刺激策により、経済が下支えられ、景気後退局面入りは免れてきた。しかし、今年9月に入り、政府系住宅金融機関(GSE)2社の経営危機、米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻、米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の経営危機などにより、金融不安が再び拡大した」と指摘した上で、10月3日、金融安定化法がようやく成立したものの、市場の反応は鈍く、その後も株価は下落を続けていると述べた。

次に、金融市場の混乱が深刻化した背景として、(1)住宅価格の下落に歯止めがかからず、サブプライムローン関連をはじめとする証券化商品の損失が拡大し続けていること(2)金融機関がデリバティブや証券化商品を使った高レバレッジ取引を拡大させていたため、巨額のリスク資産に比して資本が少なかったこと(3)市場にとって予想外のリーマン・ブラザーズの破綻により、信用不安が著しく高まったこと――などを指摘した。

このような金融危機拡大に対する米政府の金融支援策について、「AIG救済の決定、公社債等の安全資産で運用されるマネー・マネジメント・ファンド(MMF)に対する政府保証制度の導入、FRB準備預金への金利付与の認可については有効な対策と評価できる」と述べた上で、10月8日、ポールソン財務長官は、金融安定化法の公的資金7000億ドルの用途について、銀行に対する公的資本注入を排除しないとの発言をしており、今後の動向が注目されると言及した。

また、今回の米国における金融危機と90年代の日本における金融危機との違いについて、「経済規模に占める不良債権損失額でみれば、現在の米国の方が90年代の日本よりも軽症と判断できる。ただし、日本は10年以上をかけて不良債権処理を行ったのに対し、米国は極めて短期間で損失を処理してきたため、金融機関は非常に厳しい状況に置かれている」と述べた。

さらに、企業の債務不履行リスクを対象とした金融商品取引であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場の動向について、「今年6月時点のCDS残高は想定元本ベースで54兆ドルと、07年の世界GDP並みの規模となっている。この背景には、CDSがヘッジ目的のみならず、投機目的でも取引されていることが挙げられる」また、「大手投資銀行のCDS取引仲介額は極めて大きく、リーマン・ブラザーズの破綻を背景に、カウンターパーティーリスク(取引相手が債務不履行を起こすリスク)への警戒心が高まっている」と説明した。

最後に、日本経済の今後の成長戦略について、人口減少は潜在成長率を低下させることから、外国人材の受け入れが必要であると指摘。特に、ハイレベルの知的移民受け入れ方式について、「優秀な外国人を積極的に受け入れるために、日本語能力試験などの合格者に対して、優先的に留学・就学できる滞在許可証を発行する必要がある」「日本語能力の高い外国人材の受け入れは、日本企業の海外展開にも有利に働く」と述べた。

なお、当日の委員会では併せて、提言案「人口減少に対応した経済社会のあり方」を審議し、了承された。

【経済第一本部経済政策担当】
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