日本経団連タイムス No.2931 (2008年12月4日)

「今後の財政運営のあり方」聴く

−財政健全化の必要性など、土居・慶應義塾大学准教授から/財政制度委員会企画部会


日本経団連の財政制度委員会企画部会(筒井義信部会長)は11月18日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、慶應義塾大学経済学部の土居丈朗准教授から、「今後の財政運営のあり方」をテーマに説明を受けるとともに、意見交換を行った。土居准教授の説明概要は次のとおり。

1.財政健全化の必要性

財政赤字の累増に伴い、経済が平時にある場合は国債金利が上昇する。金利が高止まりすると民間の資金調達コストが高まり、設備投資が抑制される。また、利払費が膨らみ財政が硬直化すれば、若い世代にとっては行政サービスが抑制され、給付と負担の世代間格差が拡大する。
これまでのところ金利は上昇していないが、今後も上がらない保証はない。日本経済が持続的に成長し、若干インフレ気味の平時経済に戻れば、金利も上昇すると考えられる。

2.財政健全化の手段

財政を健全化する手段は歳出削減と増収・増税しかないが、国民はまずは行政の無駄の排除を求めている。しかし無駄が完全にゼロになるまで増税できないのでは、財政健全化が進まない。国民の理解を得るために行政の無駄を常時監視する役所をつくる等、何よりも政府の信頼回復を図ることが不可欠である。
他方で、国民に「No Free Lunch、すなわち負担のない給付はない」という認識を持ってもらう必要もある。

3.経済成長と政府の役割

これまでは公共事業や金融手段などを通じた再分配政策が重視されてきたが、今後は財政運営の政策スタンスを効率性重視に転換しなければならない。
税制面では、中長期的には所得課税から消費課税への抜本的税制改革、短期的には外形標準課税や償却資産の固定資産税を含む実質的な赤字法人課税の廃止など、企業活動を阻害する税制を見直す必要がある。また、金融所得一体課税の実現や、社会保障の安定財源の確保も重要な課題である。

4.財政健全化のフレームワーク

これまで内閣が変わっても「基本方針2006」のコミットメントを動かさなかった点は評価できる。2011年度プライマリーバランス黒字化の旗は最後まで降ろすべきではない。万が一、11年度の目標を先送りする時は、次の目標を間髪入れずに出さなければならない。また、目標達成直前に景気が悪化した場合の緊急避難的措置も検討する必要がある。

5.社会保障と財政健全化

社会保障費の増大と財政健全化のバランスをとる上で、社会保障と非社会保障を分ける2部門アプローチも一案ではあるが、社会保障が聖域となって財政健全化に逆行するようになってはならない。

6.地方財政・特別会計

地方財政については、国と地方の役割分担を明確化した上で、ナショナルミニマムにかかわる部分については国が財源も含め責任を持つ一方、それ以外の上乗せ・横出し部分は自由裁量を与え地方の責任とすべきである。
また、特別会計の見直しが進んでいるが、積立金の水準が客観的指標で説明されていない等の問題が残っている。

【経済第一本部経済政策担当】
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