日本経団連タイムス No.2933 (2009年1月1日)

09年版「経労委報告」を公表

−労使一丸で難局を乗り越え、さらなる飛躍に挑戦を


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は12月16日、『2009年版経営労働政策委員会報告』(経労委報告、経営労働政策委員会議長=御手洗会長、委員長=大橋洋治副会長)を公表した。同報告では、経労委報告の本来の目的である、春季労使交渉に向けた経営側としての指針を示すものという原点に立ち返り、取り上げる内容を企業経営と労使関係、労働諸施策に直接関係する課題に絞っている。また、同報告は4章構成となっており、今次労使交渉・協議における経営側のスタンスは、第2章で触れている。概要は次のとおり。

第1章 日本経済を取り巻く環境の変化と今後の見通し

米国発の金融危機は、各国の実体経済に多大な影響を及ぼし、今や世界同時不況の様相を呈している。金融市場が安定したとしても、世界経済の回復には少なくとも数年を要することを覚悟する必要がある。
世界経済の急激な落ち込みと、為替相場の急激な変動などは、これまでわが国経済を牽引してきた輸出産業に大きな打撃を与え、経済全体が急速に悪化している。設備投資など企業の投資行動は慎重化し、株価下落を背景とした逆資産効果などによる消費者マインドの冷え込みも著しい。日本経済は当面、内外需とも牽引材料が全く見当たらない状況にあり、回復までに相当の期間を要するとみられる。
また、企業収益の一層の落ち込みや、減産の拡大、倒産の増加に伴い、失業率や有効求人倍率などの雇用関連指標がさらに悪化することは確実であり、今後の雇用動向には細心の注意を払う必要がある。

第2章 今次労使交渉・協議における経営側のスタンスと労使関係の深化

現下の状況は、過去のオイルショックやバブル崩壊後の長期不況を上回る第三の危機といえる。その克服は容易ではないが、過去の経済的危機を労使の努力によりはね返してきた経験・教訓を踏まえ、労使は今こそ危機感を共有して、一丸となって難局を打開していく姿勢が求められる。
また、国際競争力を維持・強化していくためには、優れた人的資源を蓄積し、技術力や現場力を高めることなどを目的に、課題解決型の労使交渉を進めていく必要がある。

■ 雇用の維持・安定の重要性

雇用の維持・安定は、人的資本の蓄積や、労使の信頼関係の構築、従業員の忠誠心・チームワークの醸成の土台となり、競争力の源にもなっている。経営環境がとりわけ厳しい今次労使交渉・協議においては、雇用の安定に努力することが求められる。
加えて、官民が協力しながら雇用問題に果敢に取り組む必要性が高まってきており、雇用のセーフティネットの拡充など、政府が積極的な役割を発揮していくことが期待される。

■ 生産性を基軸とした人件費管理の徹底

賃金をはじめとする労働条件を決定する際には、(1)国際競争力の維持・強化(2)付加価値増大を追求するための環境整備(3)総額人件費管理の徹底――という3つの視点を念頭に置く必要がある。
さらに、市場横断的なベースアップはもはやあり得ないことに加え、仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度への見直しが求められる中、個別企業内における一律的なベースアップについても想定しにくい点に留意すべきである。また、賃金交渉の妥結結果については、ベースアップの有無だけに注目が集まりがちであるが、多くの企業で従業員一人ひとりの成長や貢献度の向上を反映した査定昇給や昇格昇給などが実施されており、賃金は1年前より上がっている場合が多いことも念頭に置く必要がある。
以上の視点を踏まえた上で、総額人件費の決定に際しては、自社の支払能力に即して判断されるべきであり、需給の短期的変動などによる一時的な業績変動は、賞与・一時金に反映させることが基本である。一方で、恒常的な生産性向上の裏付けのある付加価値の増加分については、特定層への重点的配分や人材確保など自社の実情を踏まえて総額人件費改定の原資とすることが考えられる。
なお、企業の減益傾向が一層強まる中、ベースアップは困難と判断する企業も多いものと見込まれる。

■ ワーク・ライフ・バランスの推進

ワーク・ライフ・バランス推進の目的・意義については、労使間あるいは従業員一人ひとりの間で必ずしも共通の理解がされていない。真に効果のある取り組みとするためには、労使間でワーク・ライフ・バランスの趣旨について共有を図り、従業員と企業がそれぞれのニーズを高い次元でマッチングさせる視点を持ち、生産性の飛躍的な向上を追求する、新しい働き方への挑戦と位置付けることを基本とすべきである。

第3章 公正で開かれた人事・賃金システムの実現

近年、処遇の公正性を図り、だれに対しても挑戦機会を開いていくことが求められている。こうした課題を解決しつつ、企業の競争力を維持・強化していくためには、人の活力を引き出す人事・賃金システムの構築に取り組む必要がある。
そのため、仕事と役割の相関を高めた賃金等級を適切に設け、ときどきの貢献度を評価して反映する賃金制度を構築することが求められる。また、広く開かれた雇用機会の提供や、わが国の競争力の主たる源泉である「現場力」の維持・向上を図るため、職場における一体感の醸成を図ることも重要となる。

■ 広く開かれた雇用機会の提供

全員参加型社会の構築に向けた基盤整備を図るためには、新卒採用を基本としつつ、転換制度を含めさまざまな形で長期雇用を望む人への門戸を開く姿勢が重要である。とりわけ、就職氷河期に意に反して派遣社員等になった人々のうち、長期雇用を望む人に新たな道を開くことは、社会的な課題でもある。また、保育サービスの拡充などによる育児・介護支援の充実、外国人材の積極的な受け入れが重要となる。
なお、採用内定取り消しについては、客観的に合理的で社会通念上相当な理由が必要であることに留意し、極力取り消しの回避に向けて努力すべきである。

第4章 わが国企業の活力・競争力を高める環境の整備

わが国企業の活力と競争力を高めるためには、企業の取り組みを後押しする政策的支援と、税制面や国際的な経済連携をはじめとする競争基盤の整備が求められる。
中小企業の経営を取り巻く環境は一層深刻なものとなっているが、まずは中小企業自らが高付加価値の創造に取り組むことが求められる。また、政府においては、着実な中小企業支援施策の迅速な実行を行うとともに、必要に応じさらなる施策についても検討していくことが求められる。
最低賃金制度については、法改正により、地域別最低賃金の機能強化が行われたが、一方で、景気後退の深刻度が増していることから、09年度の最低賃金の審議にあたっては、小規模企業における雇用維持を最優先とし、極めて慎重に審議・決定されるべきである。
また、持続的な経済成長のためには、道州制の導入による分権型国家の実現と広域経済圏の形成を進め、地域経済の活性化を図ることが不可欠である。

■ 国民の将来不安解消の必要性

国全体の閉塞感を払拭し、一日も早く景気を回復軌道に乗せていくためには、負担感の増している中低所得者層などの所得税減税や、内需拡大に向けた投資促進に資する税制措置が必要である。また、雇用失業情勢は今後一層深刻化することが懸念されることから、雇用保険制度の拡充や対象者の拡大など、早急に雇用のセーフティネットを強化していくことが求められる。

【労政第一本部企画担当】
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