日本経団連タイムス No.2933 (2009年1月1日)

グテーレス国連難民高等弁務官と社会貢献推進委員会で懇談

−難民取り巻く現状と課題など



左から佐藤氏、グテーレス氏、古賀氏

日本経団連の社会貢献推進委員会(古賀信行共同委員長、佐藤正敏共同委員長)は12月19日、東京・大手町の経団連会館に、アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官(元ポルトガル首相)を招き、難民を取り巻く現状と課題・企業への期待について話を聴くとともに懇談した。
グテーレス高等弁務官の発言要旨は次のとおり。

■ 難民問題とUNHCRの役割

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、1951年の難民条約に基づいて、紛争や迫害によって故郷を追われた世界中の難民の保護と難民問題の解決へ向けた国際的な活動に取り組んでいる。
世界には1100万人の難民、また、紛争や迫害によって国内避難民となった人が2700万人いる。難民は国際法に基づく庇護の対象となるが、国内避難民は法的根拠がなく国際社会からの支援を得にくい。国内避難民への対応は対症療法的にならざるを得ず、人道支援上、根深い問題になっている。
難民問題には、紛争、気候変動、貧困などさまざまな要因が複雑に絡み合っている。さらに、食糧問題、森林破壊、水をめぐる争奪戦など新たな要素が加わってきた。従来、貧困は紛争の根本的原因となってきたが、環境問題に経済危機が加わり、今後、ますます激化する。ソマリアやイエメンの紛争は、干ばつが原因で生活の手段を失ったことが原因とみられている。人々は、国内にとどまることができず、よりよい生活を求めて国や地域を越えて移動している。世界中にいる難民、国内避難民の問題は、国際的な人道問題である。

■ 企業の持つ技術・ノウハウ面での協力は、資金援助以上に重要

こうした課題への取り組みとして、予防、保護強化、帰還に向けた経済開発の確保、受け入れ体制の整備等が重要である。
予防については、日本企業は世界に進出しており、各国の外交や紛争といった政治的課題を知っていることから、経済環境が劣化しないよう、開発協力や気候変動への対応を支援することで、予防に貢献できる。保護強化については、庇護を与える地域を拡大する必要がある。日本政府は2010年度に、タイの難民キャンプで生活しているミャンマー難民約30人を受け入れることを決定した。このような第三国定住の地となることは大きな貢献となる。難民が第三国の社会に溶け込むには、国だけでなく市民社会や企業の支援が必要である。
国際的な援助機関は、企業が持つ専門性やマネジメント力を必要としている。例えばUNHCRは監査法人の支援を受けて、組織改革を行った。その結果、組織をスリム化し、その経費をより効果的な難民支援に向けることができた。そのほか、ITソフト会社による身元確認のための登録システムの構築、製薬会社からの感染症対策への協力、日本の眼鏡会社による眼鏡の寄贈や視力の検査とケアなど、企業の専門性を活かした協力事例は多数ある。資金援助以上に有効なのは、企業の持つ技術やノウハウの面での協力である。難民問題の解決は、世界の平和につながる。日本企業の活発な支援を期待したい。

◇◇◇

「2007年度社会貢献活動実績調査」(案)を審議

社会貢献推進委員会では、同日、「2007年度社会貢献活動実績調査」(案)を了承した。今回の調査結果では、社会貢献活動支出額の1社平均は4億6800万円となった。特徴としては、その手法が資金のみならず、現物寄付、施設開放、従業員派遣など、多様性が高まったことに加え、NPOとの協働を含む独自プログラムへの支出が増加したことである。日本企業が企業市民として、さまざまな分野での社会貢献活動を多様な方法で展開しているというのが、今年の調査結果から得られる全体の傾向となった。同調査の結果は1%クラブのホームページ(http://www.keidanren.or.jp/1p-club)に掲載。

最後に、佐藤共同委員長から、「経済状況がかつてないほど厳しくなっているが、こういう時だからこそ、社会の一員としての企業という原点に立ち返り、地に足のついた社会貢献活動を進めることが重要になってくる。そのことが、企業とその社員の社会の要請に対する感性を磨くことにもつながり、CSRを推進するための基盤づくり、人づくりにもつながっていく」とのあいさつがあった。

【社会第二本部企業・社会担当】
Copyright © Nippon Keidanren