日本経団連タイムス No.2933 (2009年1月1日)

「金融危機の今後の展開を探る」

−常任理事会で武藤・大和総研理事長が講演


日本経団連が12月3日、東京・大手町の経団連会館で開催した常任理事会で、武藤敏郎大和総研理事長が「金融危機の今後の展開を探る」と題して講演した。講演の概要は次のとおり。

■ 金融危機の状況

米国の住宅ローンのわずか十数%を占めるにすぎないサブプライムローンの問題が、2007年暮れに証券化商品全体に波及していった。その後、08年3月にベア・スターンズの経営不安、9月のリーマン・ブラザーズの破綻と続き、マーケットは大きく混乱した。各国がさまざまな公的支援を繰り返し実施しているが、市場は依然として不安定な状態にある。
問題の発端となった住宅価格をみても、米国の代表的な住宅価格指数である、S&Pケース・シラー住宅価格指数は、06年6月をピークに下落を続けている。今後の最もあり得るシナリオとしては、2010年年央に底を打ち、11年11月頃まで横ばいが続き、その後、次第に回復していくのではないかと考えられる。
また、今回の金融危機による損害見込みをみると、IMFの推計では、08年10月時点の予測が1兆4050億ドル、08年4月時点が9450億ドルであった。また、イングランド銀行の推計では、08年10月が2兆7710億ドル、08年4月が1兆3990億ドルであった。双方とも時間が経つにしたがって、予測額が増えている。金融機関による損失処理累計額は、これらをかなり下回っており、控えめにみても、回復は道半ばだと言える。

■ 金融危機の原因と対応策

今回の金融危機の原因としては、近年、金融イノベーションが急速に進展したが、それに市場参加者も規制監督当局も追いついていけなかったことがある。さらに、市場のインテグレーションとグローバル化が危機の拡大と深刻化を招いた。金融イノベーションを周辺から支えた格付機関などが適切な監督を受けていなかったことも要因の一つである。
この金融危機に対して、11月にG20の首脳が集まって対応を協議し、今後の対応方針をまとめた。各国政府も、相当踏み込んだ財政、金融政策を実行しつつある。特に、米国は大規模な財政出動を行うとみられている。

■ 今後の見通し

11月にIMFが発表した世界経済の見通しでは、ここ数年5%程度の成長率であったのに対し、09年度は2.2%に落ち込むとみている。日本経済について、大和総研の予測では、実質GDP成長率が08年度はマイナス0.5%、09年度がマイナス1.0%になると見込んでいる。
今後を展望する上では、悲観的な見方だけでなく、日本経済の強みも考慮する必要がある。第一に、今回の金融危機による日本の損害は欧米と比較して小規模であった。第二に、資源・食料価格は相当低下してきている。第三に、日本企業は、バブル崩壊後の取り組みによって、主要国の中で最も健全なバランスシートを備えており、体力をそれほど損なっていない。
いずれ世界経済が回復したときに、新しい世界の経済構造の中で、日本がイニシアチブを発揮できる体制づくりを急ぐべきである。

【総務本部総務担当】
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