日本経団連タイムス No.2938 (2009年2月12日)

「わが国の財政の今後の課題」聴く

−上村・関西学院大学(大学院)准教授から/財政制度委員会企画部会


日本経団連の財政制度委員会企画部会(筒井義信部会長)は1月30日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、関西学院大学経済学部・大学院経済学研究科の上村敏之准教授から、「わが国の財政の今後の課題」をテーマに説明を聴いた。上村准教授の説明要旨は次のとおり。

1.財政健全化のあり方

日本の政府債務残高対GDP比は147.7%と諸外国に比べて非常に高いが、その水準よりも、今後の推移に注意を払う必要がある。現下の経済危機に対応するため財政出動は必要だが、経済の潜在成長力を高め、消費を促すものでないと意味がない。当面、財政状況が悪化するとしても、財政健全化に向けた姿勢を見せ続けることが重要であり、まずは2010年代後半に基礎的財政収支を黒字化する目標を設定すべきである。

また、増税イコール景気悪化と単純にとらえるのではなく、増税を段階的に行うことで駆け込み需要を喚起し、増収分を社会保障給付として再分配すれば、景気刺激にも役立つ。財政再建と景気の改善を両立させる増税の方法を模索する必要がある。

2.社会保障の取り扱い

NIRA(総合研究開発機構)の推計では、過剰な家計貯蓄額は高所得層を中心に100兆円を超える。こうした過剰貯蓄を解消し消費を拡大させる(「貯蓄から消費へ」)ために、国民に将来受給できる年金額の情報と年金制度の知識を広めて老後の安心を確保する必要がある。

昨年末、経済財政諮問会議で歳出を社会保障と非社会保障に分けて考える2部門アプローチの議論が行われた。この考え方をさらに進めて、社会保障は一般会計から完全分離して、一般会計からの繰入を廃止し、足りない財源は消費税を中心とした増税で賄うことで、国民が社会保障の受益を実感できるようにすべきである。

3.公共事業関係の特別会計

今後はインフラの整備・建設から維持管理へと発想転換する必要がある。また、将来の道州制をにらんで地方分権を進めていく中で、国が管理・運営しているインフラを地方に移す場合は、特別会計に隠された財務状況、各種データを分析する必要がある。例えば、公的資本形成にあたって、財政投融資資金や建設国債が活用されている。「埋蔵金」というプラスのストックだけでなく、債務にも目を向け、特別会計ごとにチェックする必要がある。これにより、債務の膨張を抑制することもできよう。

【経済第一本部経済政策担当】
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