日本経団連タイムス No.2940 (2009年2月26日)

経済広報センターがシンポジウム

−「気候変動:ポスト京都議定書の在り方」テーマに
/欧州から研究者迎え、排出権取引やセクター別アプローチでパネル討議


日本経団連の関連団体である経済広報センター(御手洗冨士夫会長)は1月21日、東京・大手町の経団連会館で、「気候変動 ポスト京都議定書の在り方‐欧州研究者と考える」をテーマに欧州から研究者4名を招聘し、21世紀政策研究所の澤昭裕研究主幹をモデレーターに、シンポジウムを開催した。

冒頭、研究者4名から欧州での排出権取引の現状や日本の主張するセクター別アプローチに対する意見がそれぞれ述べられた。

英国・ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのグウィン・プリンス教授は、現在を京都議定書は捨て去るべき時期と訴え、コペンハーゲンで2009年に開催されるCOP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)では、トップダウン型の京都議定書を変えていくことが国際的合意を得る唯一の方法だと主張した。また、「米国のオバマ新政権の構想には、ブッシュ前大統領と同じく、京都議定書への関心はないが、これまでよりも前向きな環境政策が打ち出されるであろう」と述べた。さらに、「欧州を含む各国が、本当に排出量の削減に取り組みたいのであればセクター別に削減目標に取り組むことが必要であり、日本の考え方も国際社会へ強く主張していくべきだ」と要望した。

プリンス教授と同様に、欧州の排出権取引に批判的なフィンランド・ヘルシンキ大学のアッテ・コローラ教授は、「ポスト京都議定書の議論には新興国も含むすべての国が参加し、議論すべきだ」と述べた。その最も大きな理由は、「新興国の急激な排出量の増加であり、特に中国でこのまま排出増加が続けば、2030年に、08年の世界全体と同じ排出量が中国一国から出る」としている。また、「気候変動の解決策を考えるにあたり、(1)他の環境問題を引き起こさない持続可能なもの(2)直接大気に影響を及ぼさないもの(3)コストの見合うもの――の3つの必要不可欠な判断基準を満たす技術革新が今後必ず起こるだろう」と述べた。

欧州の排出権取引推進派である欧州政策研究所シニアフェローのクリスチャン・エーゲンホーファー博士は、「排出権取引を含む現在のEUの戦略はEU固有のものであり、世界の他の地域に適応できるものではない」とした上で、「目的であるエネルギー供給の安定化、EU加盟国の競争力増大、そしてCO2削減の持続可能性をより強化することができるのであれば、排出権取引にこだわる必要はない」と述べた。事実、ボトムアップ型セクター別アプローチに関して興味を持っており、現在のEU政策との部分的な融合の可能性もあるとの見方を示した。

同様の立場であるECOFYS気候変動国際ビジネス開発担当のダイアン・フィリプセン氏は、欧州の排出権取引の反省点として各国が独自のキャップ設定をしたため、環境面での効果が限定的になった点を挙げたが、「重要なことは排出権取引のマーケットが実在していることである」とした。セクター別アプローチに関しては、「途上国におけるセクター別削減のクレジット、セクター別の軽減ポテンシャルを評価していくことは非常に重要であるが、国境を越えたセクター別の合意、国を超えた技術供与は未来の話であり、現段階で施行し難く、排出権取引とセクター別アプローチの融合も、政策のデザイン、構成項目などさまざまな目標レベルの違いがあり、非常に困難である」と述べた。

パネルディスカッションでは、国際交渉の場での日本のセクター別アプローチに関する提案に対し、エーゲンホーファー博士から「日本の主張である“セクター別のベンチマーク”の議論がタブー視されており、経済産業省が出している50億トンのCO2削減目標は、非常に達成が厳しい」と疑問の声が上がった。一方、プリンス教授、コローラ教授は「日本の主張は、排出量が多いセクターへ集中してアプローチしていく手法であり、非常に合理的で成功する」と指摘、「アメリカの考え方とも同調したものになっている」と述べた。しかし、単なるエネルギーの効率化だけでは限界があり、新たなエネルギー源の開発等の追加的な措置を講じるとともに、日本の国際的な主張をより強く、広く周知し、日本の立場を確立していく必要性を強調した。

09年のCOP15の合意可能性に関して、フィリプセン氏は「これまでのEUで行われてきた交渉は国際的な交渉の縮図であり、COP15・16では無理かもしれないが、さまざまなオプションやコミットがいずれ合意できるであろう」と楽観的な見解を示したが、プリンス教授は、「現在発表されている外交アジェンダではバリ、ポズナン同様に失敗する。アメリカが動き出せば市場を好循環に持っていくだろう」と述べた。

そのほか、欧州の排出権取引の中に組み込まれているCDM(クリーン開発メカニズム)や、環境に対する適応策の重要性など多岐にわたる議論が活発に行われた。

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