日本経団連タイムス No.2945 (2009年4月2日)

「世界不況の中の中国経済」開催

−21世紀政策研究所が第63回シンポジウム


日本経団連の21世紀政策研究所(御手洗冨士夫会長、宮原賢次理事長)は3月19日、東京・大手町の経団連会館で、第63回シンポジウム「世界不況の中の中国経済」を開催した。当日は200名を超える参加者を得て、激動する世界経済の中での中国経済の動向と今後の展望について、同研究所のプロジェクトチームのメンバーから報告が行われ、引き続きパネルディスカッションが行われた。

研究報告やパネル討論展開

渡辺利夫同研究所研究諮問委員(拓殖大学学長)の開会あいさつの後、朱炎富士通総研主席研究員が「中国経済はいつ回復するか:内需拡大策とその効果」、杜進拓殖大学教授が「日系企業への影響:外資政策の転換を踏まえて」、李春利愛知大学教授が「国際金融危機下における中国の自動車産業」と題してそれぞれ研究報告を行った。パネルディスカッションでは、報告者3人に加え、コーディネーターとして大橋英夫専修大学教授の参加を得て、「中国経済の展望と課題―8%成長は維持できるか?」と題して討論が行われた。

中国経済は景気循環的要因と世界の金融危機の影響が相まって、成長は2007年の13%から、08年通年で9.0%、第4四半期6.8%に低下している。特に輸出面では、労働集約型産業の対米輸出が苦境にあり、企業の倒産や工業生産が停滞、在庫調整がみられた。また、資本市場の低迷は、不動産市場や株式市場の急落を起こした。中国政府は、8%を死守、9%を確保するため、積極的財政政策を採り、09年3月の全人代で承認を得て、財政出動(4兆元投資)や金融緩和政策、産業振興、消費促進などの対策を展開している。

朱炎氏は、「現在、経済指標に表れた景気回復の兆しは、融資残高の増加、新規融資の急増、投資増などにみられ、既にセメントと鉄鋼の生産が上昇に転じ、一部の素材の出荷価格も上昇し始めている。自動車販売は、乗用車が前月比で増加。1月には世界最多となった。また株価は世界で唯一中国だけが今年に入って回復し始めている」と指摘。「中国の景気は底を打ちつつあり、世界で最初に不況から抜け出すと思われ、8〜9%の成長も可能である。これは日本の景気回復にも好影響を及ぼすはず」と述べた。

杜進氏は、「今回の危機を受け中国政府は、インフレ抑制から成長確保への政策転換を図った。また、04年からは外資政策の転換も進められてきた。中国経済は大きな転換期にあるが、相対的に強い体質を持つ日系企業は、むしろこれを好機ととらえるべきである」と指摘した上で、「大きなビジネスチャンスがあるのは、インフラ投資、産業の高度化、環境保護と省エネルギーに関係する分野である。日系企業はこの時期に、事業を整理・統合し、経営資源を集中、再編すべきである」との考えを示した。また、「8%の成長は不可能ではないが、むしろ無理をせず6〜7%程度にとどめたほうが将来の中国経済にとっては好ましい」と述べた。

李春利氏は、「中国の自動車産業は、現在でも順調に伸びている。中国国内の販売台数は、09年か10年には1000万台を超えるとみられる。生産台数では10年前後には世界トップの日本(1159万台)を追い越す。自動車保有台数は07年には4000万台を突破したが、1000人当たりの保有台数は17.8台と低い水準にあり、今後の成長の余力はまだ十分ある」と発言した上で、「現在中国政府は、景気刺激策として『汽車下郷』100万台市場の創出(自動車とオートバイを農村に)を打ち出し、09年1月の国務院常務会議では、自動車産業の調整振興計画を審議・可決した」と説明した。また、「中国の8%成長は政治的な思惑を反映しており数字の根拠が乏しい」と述べた。

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