日本経団連タイムス No.2955 (2009年6月18日)

アナン前国連事務総長と昼食懇談会

−アフリカ開発援助の課題や日本企業への期待について意見交換


日本経団連は4日、東京・大手町の経団連会館で米倉弘昌評議員会議長を座長とするコフィ・アナン前国連事務総長との昼食懇談会を開催し、アフリカ開発援助の課題や日本企業への期待について懇談した。同氏は、2006年に国連事務総長を退任後、07年に財団を設立して食糧問題に取り組んでいる。今回はアフリカの緑化や稲作振興に従事するNPOとの会合等に参加するために来日したものである。アナン前国連事務総長の発言の概要は次のとおり。


発言するアナン前国連事務総長

今回の世界経済危機は米国の金融業界に端を発しており、当初、グローバルな金融システムの辺縁にあるアフリカはその影響を免れると思われていた。しかし、それはグローバル化の本質を理解していない考えであり、今やアフリカも例外なく、打撃を受けることが明らかになった。

アフリカはいまや危機の最前線に立たされている。信用収縮によって貸し渋りが起きており、アフリカ諸国は既に貿易や国内経済活動も低下している。投資家は撤退し、さまざまな事業は延期や中止に追い込まれている。観光にも影響が出ており、景気回復後も好転しないとの懸念がある。海外在住のアフリカ人も失職のため本国送金が滞っている。さらに、日本のようなドナーの援助も縮小している。

2、3年前まではアフリカ経済は順調であり、経済成長率が他地域より高い5.5%程度に達していた。投資収益率も他地域と比べて高く、リスクに見合うリターンがあった。しかし、世銀はアフリカの経済成長率を2.5%に下方修正している。経済の収縮が進めば、成長率はさらに低下するおそれもある。

私は最近講演で、「先進国にはアフリカを経済危機から立ち直らせるための解決策を考えてほしい。アフリカには真の投資機会がある」と訴えた。

アフリカにおいてビジネスは、雇用を創出するとともに住民に豊富な製品へのアクセスを提供するという重要な役割を担っている。日本企業には、地元の中小企業をパートナーとする産業育成や、日本企業が得意とする医療や教育の分野での協力をお願いしたい。また、アフリカは企業に社会的責任を果たすための豊富な機会を提供している。

アフリカから欧米に留学した若い優れた人々が本国に戻りつつある。当初は優秀な人材の流出が懸念されたが、逆に流入が起きている。これによって、アフリカの経済成長に勢いがつくだろう。インドや南米でも、欧米留学者の帰国が母国の成長に貢献している。日本企業にも地元の優秀な人材の活用を期待したい。

企業がガバナンスの向上、腐敗の防止を政府に働きかけることは重要であり、グローバル・コンパクトの10原則の目的の1つでもある。これにより、天然資源以外にも投資機会が拡大する。特に道路、港湾、橋梁、エネルギーが重要である。製薬、医療にも可能性がある。アフリカは10億人に近い人口を有し、潜在的に大きな市場である。

最近は中国やインド、ブラジル等の新興国がアフリカで活発に活動している。新興国がアフリカのインフラ開発やエネルギー開発等で積極的なのは、伝統的なドナー国がそれを怠ってきたからである。

こうした中で、新しいドナーと伝統的ドナーの間で何か協力できないか考えている。例えば新しいドナーが100の病院を建てるなら、先進国の伝統的なドナーは医師・看護師を育成する、あるいは新しいドナーが100の学校を建てるなら、伝統的なドナーは教員を育成するといった協力関係の進展を期待している。こうした協力は、アフリカのみならず、企業のビジネス環境の整備にも貢献する。

ゼーリック世銀総裁が「アジアのタイガー」になぞらえて、「アフリカのチーター」と形容するように、次なる成長地域はアフリカである。先見の明のある企業はアフリカに進出し、そのメリットを享受できる。日本企業も後れを取ってはならない。

アフリカは確かなパートナーと優れたプロジェクトを必要としている。確かに、スーダンのダルフールやコンゴの紛争等の問題もあるが、アフリカのどこもかしこもがそのような状況にあるわけではない。ボツワナや私の母国のガーナ等見通しのある国もある。日本企業の方々にはアフリカへの投資を前向きに考えていただきたい。

【国際協力本部】
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