日本経団連タイムス No.2956 (2009年6月25日)

バーグロフ欧州復興開発銀行チーフエコノミストと懇談

−中東欧・旧ソ連地域の経済状況など



中東欧・旧ソ連地域の経済状況
などを説明するバーグロフ氏

日本経団連は18日、東京・大手町の経団連会館で、エリック・バーグロフ欧州復興開発銀行(EBRD)チーフエコノミストとの懇談会を開催し、中東欧・旧ソ連地域の経済状況等について説明を聴いた。バーグロフ氏の説明は以下のとおり。

■ 金融危機の影響は当初は限定的

中東欧・旧ソ連は、今回の金融危機で最も大きな打撃を受けた国・地域の一つである。しかし、2007年半ばから08年半ばにかけては、国内銀行システムが破綻したカザフスタン、不動産バブル崩壊に見舞われたリトアニア、ラトビアの3カ国を除けば、経済のファンダメンタルズが改善した各国では目立った信用収縮もなく、世界的な金融危機の影響は限定的なものにとどまっていた。

■ 民間対外債務の増加と世界的な需要の後退により危機の渦中に

中東欧・旧ソ連各国は、従来、経常収支赤字を抱えていたものの、将来のEU経済への統合期待に基づく外国からの投資がそれをカバーしてきた。しかし、このモデルは外的な衝撃に対して非常に脆弱であり、民間対外債務の大幅な増加は、公的債務以上に危機発生時の対処を難しくした。

そこに世界的な需要の後退が直撃し、08年10月を境に輸出の激減、外国金融機関による融資の減少、外国からの直接投資の引き揚げ、借入れ金利の上昇等、あらゆる面で危機の深刻な影響が出始めた。実質GDP成長率への影響は国によって大きな違いがあるが、外国から多くの直接投資を受け入れていた国、国内に外国の銀行があり、その親銀行を通じた資金供給を確保できる国の方が、危機の影響を受けにくい傾向がある。

09年の見通しは国によってさまざまであるが、当面の危機を何とかしのいだ後の短期・中期の課題として、実体経済の回復・改革、銀行の不良債権処理に取り組む必要がある。また、為替変動リスクへの対処、銀行のレバレッジの解消、さらには失業の増加への対応も必要である。加えて財政状況の悪化が負の遺産として残っている。

■ 今次危機の市場経済への移行に対する影響に注目

08年は、これまで市場経済への移行が進んでいなかった国を中心に進展があったが、今次危機により、中東欧・旧ソ連諸国の移行のプロセスが特に金融部門で停滞・反転しないか懸念される。他方、危機によってゼロベースでの見直しが可能となるなど改革に拍車がかかる可能性もある。特に、脆弱な国内銀行の数が多い国において金融部門のガバナンスの改善、構造改革が進む可能性がある。また、欧州各国間における金融機関の規制・監督面の調整などの改善につながることが期待される。

■ 競争、教育、製品群多角化が持続的な成長に必要

持続的な成長を確保するためには、税制などを通じた競争促進による生産性向上、初等・中等教育の質の向上による人材育成、関連製品群の多角化による輸出の促進などに注力する必要がある。

製品群の多角化にあたって国として産業政策を展開する場合、(1)特定の製品や産業部門を振興する垂直型(2)産業横断的な環境整備を行う水平型――の2つの方法がある。垂直型の場合であっても、単純に補助金を与えるのではなく、市場機能を活用するとともに、資金・インフラ面の制約を緩和・解消することなどを通じて成功の可能性を高めるような施策を講じることが肝要である。

【国際経済本部】
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