日本経団連タイムス No.2962 (2009年8月6日)

「i−Japan戦略2015」めぐり意見交換

−國領慶應義塾大学教授から説明聴く/情報通信委員会・電子行政推進委員会


日本経団連の情報通信委員会(渡辺捷昭委員長、清田瞭共同委員長)と電子行政推進委員会(秋草直之委員長)は7月28日、東京・大手町の経団連会館で合同会合を開催し、政府のIT戦略本部の「IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会」の座長代理として戦略の取りまとめにあたった慶應義塾大学総合政策学部長の國領二郎教授から、「i−Japan戦略2015」について説明を聴くとともに、意見交換した。國領教授の説明概要は以下のとおり。

■ 電子行政、医療、教育が三大重点分野

IT戦略本部は、7月6日に「i−Japan戦略2015」を決定した。同戦略は、デジタル技術が社会全体を包摂し(Inclusion)、新たな活力を生み出す(Innovation)ことにより、安心に暮らせる長寿社会や、環境と共生できる活力ある経済の実現をめざしている。今回は重点分野を(1)電子政府・電子自治体分野(2)医療・健康分野(3)教育・人材分野――の3つに絞り込み、これに産業・地域の活性化および新産業育成、デジタル基盤の整備が加わっている。今後は、デジタル技術・情報の利活用を阻むような規制・制度・慣行を重点的に見直すとともに、今回積み残した国際戦略について検討する予定である。

■ 情報の機微性によりデータ連携方法を切り分ける

現在、行政機関の情報が横でつながっていないことが、年金問題に象徴されるように国民にさまざまな不満を与えている。これを解決する手段として、「i−Japan戦略2015」では、国民電子私書箱という考え方を強く打ち出している。

データ連携の方法は、バックオフィス直接連携型と国民電子私書箱型に大別できる。直接連携型は、データを扱う行政機関が相互に連携する方法である。私書箱型は、電子私書箱を経由して、個々人が自分の情報を渡したい相手に渡す方法である。直接連携型の方がシステムとして簡素でコストも安い上に、責任主体がはっきりしており、セキュリティー面でも優れている。ただし、自分に関するデータが知らないうちにやり取りされているのではないかという懸念が惹起されやすい。一方私書箱型は、情報の自己コントロール権を尊重できる上に、個人を特定する単一のIDがなくてもデータ連携が可能になるというメリットがあるが、仕組みが複雑でコストも高くなることが予想される。

そこで、情報の機微性により、直接連携型にするか、私書箱型にするかを判断してはどうかと考えている。個人の医療情報など機微性の高い情報は私書箱型とし、社会的なコストから考えて直接連携させた方がよい情報は直接連携型とする。その判断は、社会の各層から構成される中立的な第三者組織が行う。同時に、政府レベルのCIOがリーダーシップをもって横調整する。政府CIOにいかに良い人材を送り込み、しっかりしたサポート体制を整えるかがポイントになる。

■ リスクレベルに応じた認証の仕組みを

続く意見交換では、「引っ越し手続きなど現在でも認印で済むような手続きは、電子化も民間に任せるべきである」との意見が委員から出された。これに対し國領教授からは、「ITによる現在の公的な個人認証では、すべての手続きに実印相当の高いセキュリティーを設けている。しかし、現実の社会では、ほとんどの取引は認印で済む。民間の認証システムを活用するなど、リスクレベルに応じた対応を考える必要がある」とのコメントがあった。

最後に、高度情報通信人材育成部会の重木昭信部会長から、有志企業による高度IT人材育成支援のためのNPO法人の設立など、人材育成の取り組みについて報告があった。

【産業技術本部】
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