日本経団連タイムス No.2964 (2009年8月27日)

ジャーナリストの中野氏が宇宙利用拡大や宇宙人文学で講演

−09年度事業計画や収支予算など審議/宇宙開発利用推進委員会09年度総会


日本経団連は7月21日、東京・大手町の経団連会館で、宇宙開発利用推進委員会(下村節宏委員長)の2009年度総会を開催した。総会では、08年度の事業報告と収支決算、役員の一部改選、09年度の事業計画と収支予算について審議した。議件審議の終了後、ジャーナリストの中野不二男氏から「宇宙利用の推進に向けて」をテーマに講演を聴いた。
08年度の事業報告については、宇宙基本法制定や宇宙基本計画策定へ向けた対応や、準天頂衛星プロジェクトの推進、会報「宇宙」第57号の出版による啓蒙活動などが報告された。

新委員長に下村氏が就任

次に、役員の一部改選が行われ、谷口一郎・三菱電機相談役が委員長を退任し、下村節宏・三菱電機社長が新委員長に就任した。
さらに、09年度事業計画について説明があった。今年は宇宙基本法に基づく初めての宇宙基本計画が策定され、今後5年間で最大2・5兆円の政府資金が投入されることが明記されるなど、わが国の宇宙開発利用にとって新しいスタートの年となった。そこで、宇宙基本計画の策定および実施に向けたパブリックコメントの取りまとめ、2010年度宇宙関係予算への対応、各種懇談会の開催をはじめ広報・調査活動などを行うこととした。
続いて、ジャーナリストの中野不二男氏から講演を聴いた。概要は以下のとおり。

■ 講演「宇宙利用の推進に向けて」

02年6月に政府の宇宙開発委員会がまとめた「わが国の宇宙利用推進の基本的方向と当面の方策」にある「利用側における自己増殖的な利用拡大」と「宇宙以外の分野における利用用途の発掘、育成が重要」という表現は印象的であった。宇宙利用拡大のイメージは、宇宙開発コミュニティーから人文科学系や社会科学系といった異分野のコミュニティーに入り、利用側の自己増殖がフィードバックされて、宇宙開発も拡大することである。
オーストラリア大陸におけるアボリジニー部族間の交易ルートの調査や、松尾芭蕉が歩いた道などの史実と地理地形の整合性などに関心を持っているが、陸域観測技術衛星の「だいち」(ALOS=Advanced Land Observing Satellite)の画像を利用して古代史における人の移動に関する調査研究を行った。これを、宇宙人文学と称している。
具体的には、高句麗からの渡来人が日本に入ってきたルートは、日本海側からの北ルートと、瀬戸内海や太平洋からの南ルートがあったが、日本国内で彼らがたどった道を調べた。「だいち」画像を加工し、3次元化することで、土地の起伏や道の傾斜までわかり、両ルートの深い交流はなかったと思われる。
宇宙人文学はアカデミックな作業に使えるだけでなく、歴史好きな一般の人が楽しめる道具にもなる。
今後の課題としては、大学教養課程の学生に、衛星データの活用などを普及させ、宇宙利用の重要性を高めていく必要がある。

【産業技術本部】
Copyright © Nippon Keidanren