日本経団連タイムス No.2964 (2009年8月27日)

日本政府から「最近のロシア情勢と日ロ関係の今後の展望」について聴く

−日本ロシア経済委員会・日本NIS経済委員会が09年度総会


日本経団連の日本ロシア経済委員会・日本NIS経済委員会(岡素之委員長)は7月31日、東京・大手町の経団連会館で2009年度総会を開催、外務省欧州局の兼原信克参事官から「最近のロシア情勢と日ロ関係の今後の展望」について聴くとともに意見交換を行った。兼原参事官の説明概要は次のとおり。

■ 最近のロシア情勢

ロシアが競争力を持つ分野は、石油と天然ガスをはじめとする鉱業分野であり、工業は期待するほど育っていない。2000年代以降の国際経済の好況と石油・天然ガス価格の上昇により、ロシアは年間約7%の経済成長を続けてきた。これに伴い日ロ貿易高も年々拡大しており、06年が約10兆円、07年が約20兆円、08年が約30兆円と高い伸びを示している。
G8諸国の中でも、ロシアに匹敵する人口、教育水準、豊富な資源を兼ね備えた国はなく、同国は現状の2倍のGDPを有していてもおかしくはない。ロシアが潜在能力を発揮できない理由の1つとして、特に資源分野に外国企業が参入することを好まないことが挙げられる。
とはいえ、東アジア全体が著しい経済成長を遂げる中、長期的にみれば日ロ関係は大きく変化していくだろう。冷戦構造の崩壊に加えて、経済統合の1つの目安である域内貿易比率を比較すると、EUが65%超、NAFTAが50%台後半であるのに対し、東アジアは60%近い水準まで進んでいる。巨大な経済規模を持つアジアと広大な資源の後背地を持つロシアが、全く統合されずに残っているのは不自然な状況であり、ロシアもアジアへの参入をめざしている。

(1)エネルギー開発の重要性

ロシアのエネルギー開発に関しては、日本企業にとって魅力的な案件を提示するよう説得を続けている。これまで投資を積極的に進めてこなかったため、西シベリアの産油・産ガス量は減少している。より条件の厳しい山岳地帯を含む新規の資源開発は、従来の方法では困難とされており、生産を軌道に乗せるには少なくとも20〜30年は必要ともいわれるため、今から着手しないと間に合わない。
生産した原油、天然ガスをいかに適正な価格で国際市場に供給するかも課題であり、ロシアは現在、サハリンからハバロフスクを結ぶガス・パイプラインの敷設計画の実現に関心を持っている。先般スコヴォロディノ〜タイシェト間に敷設された石油パイプラインには、西シベリアの油田から年間3千万トン、東シベリアの油田開発が進めば、さらに年間5千万トンが送油される見込みである。ロシアは原油輸出をにらみ、一部に鉄道輸送も利用し、必ず東方にも原油を運ぶだろう。天然ガスについてロシアは、国内への供給を優先しているため、ハバロフスクからまずはウラジオストクに振り向け、残りをLNG化して輸出しようともくろんでいる。
こうしたロシアの戦略は、中国の動向とも関連している。中国は増大するエネルギー需要を満たすために隣国ロシアから原油や天然ガスを安く購入したい。他方、ロシアは原油や天然ガスの輸出先の多様化を志向している。そこで、中国は、供給先の選択肢の1つとして中央アジア諸国に接近しているが、ロシアはこれを歓迎していない。

(2)シベリア鉄道の近代化

ロシアの輸送は、費用と効率の観点から、陸路よりはむしろ海路が発達している。陸路による輸送の唯一の利点は日数の短縮である。金融危機以前、ロシアの港湾の取扱能力が限界に達したことから、陸路による輸送の活性化のチャンスがめぐってきた。この間、日本政府はロシアに対して、「国際経済、とりわけ東アジア全体と欧露部を陸路でつなげる必要性は必ず高まっていく。日本、韓国、中国の上海以南が利用するようになることを踏まえ、柔軟に考えるべき」と言い続けてきた。日本企業もシベリア鉄道の利用に関心を持つようになっていたが、金融危機による貨物量の減少や海運運賃の下落により一時ほどではなくなりつつある。
ロシアは、陸路による輸送システムを近代化し、急速に成長する東アジア経済圏と連結する計画に関心を示すものの、税関などの問題点の改善を要請するととたんに態度を硬化させる。シベリア鉄道の近代化については、首脳レベルで検討するよう申し入れており、ロシアは市場経済に移行して日が浅いことを踏まえつつ、さらに本腰を据えて、粘り強く協議を続けていくべきと考えている。

■ 今後の日ロ関係の展望

領土問題を抱えるものの、最近の日ロ関係は基本的に上げ潮であると考えている。日ロ両国は、互いを等身大で見て、協力のあり方を模索しようとしている。ロシアは人口の少ない極東を開発するためにも日本と良好な関係を築こうとしている。領土問題の解決は重要であるが、隣国である大国ロシアを旧ソ連時代の考え方でとらえてはならないと思う。
わが国にとって、ロシアとの関係から得る利益はエネルギー安全保障である。20〜30年後に本格的に産出される東シベリアの原油をはじめ、日中韓で資源の確保に向けた動きが活発化するだろう。ロシアが東アジアへの統合を進める過程で、わが国が原油や天然ガスを獲得することは、エネルギー安全保障上、間違った戦略ではないと考える。ただしロシアのカントリー・リスクは大きいので、ドイツのように国内エネルギー需要の40%を依存してしまってはならない。供給先としての占有率は、10〜15%程度が限界であろう。
長期的な方向性としては、ロシアに東シベリアの資源開発の実施、東アジア経済への統合、ソ連時代の思考方法の変革、ルール順守の徹底を求めていくべきである。市場経済のルールを無視した政治的影響力を行使してはならないことを理解してもらいつつ、ロシアを国際経済に統合していく必要がある。

(本会合における兼原参事官の発言内容は、個人の見解を述べたものです)

【国際経済本部】
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