日本経団連タイムス No.2968 (2009年10月1日)

「アジア新興諸国の経済発展とわが国企業の競争力強化」

−東京大学大学院経済学研究科・天野准教授から聴く/経済政策委員会企画部会


日本経団連の経済政策委員会企画部会(村岡富美雄部会長)は9月11日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催、天野倫文・東京大学大学院経済学研究科准教授から、「アジア新興諸国の経済発展とわが国企業の競争力強化」について説明を聴いた。

天野准教授はまず、世界経済の長期予測を踏まえ、日本経済が置かれる状況について説明。日本は今後本格的な人口減少局面を迎え、経済成長も伸び悩む一方、中国は人口減少社会に入りつつも、GDPで日本を抜き、アジア最大の市場を形成すると述べた。

また、東南アジア諸国では、都市化の進行に伴って、中間層の厚みが増すことで、市場の形成が促進されると説明した。

こうした中、日本企業の海外事業活動の状況をみると、アジア法人における売上高や経常利益率が伸びており、今後もアジア新興諸国では自動車や情報家電などの市場が拡大していくと見込まれているものの、品質へのこだわりによって市場を上位・中位・下位と分けた場合、日本企業のシェアは上位市場のうち20%程度にすぎないと指摘。日本企業はこれまで、先進国市場でハイテク化による差別化戦略を図る一方で、技術革新の必要がないローエンド製品を途上国に直接移転する戦略をとってきたが、このような対応では、新興国市場でも、特に大きな需要があるとされるBOP(Base of the economic pyramid market)と呼ばれる市場のうち、わずかな部分しかカバーできないと説明。その理由として、BOPで成功した戦略を分析すると、製品に修正の余地を残すなど、現地の法人や顧客と共同で製品を開発できるようにしており、製品をそのまま売るよりも、製品の開発段階から現地顧客が求める機能を吟味できる体制をとったケースが成功していることを挙げた。

特に、巨大なBOPとして期待が寄せられている中国では、1980年以降一人っ子政策の中で生まれた若い世代が、一定の所得があり、海外の商品を受け入れやすい中間層を形成し始めていることから、こうした若年層に合わせた市場戦略を行うことが重要であると述べた。

さらに、アジアにおける国際分業と製品設計に関する戦略についても言及。製品設計は、自動車のようにシステム全体に大きく依存し、システムと部品のインターフェースが標準化されていないインテグラル型と、パソコンのように構成部品がシステムから独立し、インターフェースが標準化されているモジュラー型に分けられるが、日本が得意とするインテグラル型は市場が広がるにつれて、次第にマーケットシェアを落としてしまう傾向にあると述べた。その上で、これを食い止めることに成功している企業の例として、(1)モジュラー化を前提とした企業間分業モデルを構築したケース(2)ローコストインテグラル化と企業内分業を活用したケース――を挙げた。

【経済政策本部】
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