日本経団連タイムス No.2968 (2009年10月1日)

エグゼクティブ法務戦略セミナー開催

−金融法制をテーマに/日本経団連事業サービス


日本経団連事業サービスは9月8日、東京・大手町の経団連会館で日本経団連と連携し、中央大学法科大学院教授で森・濱田松本法律事務所客員弁護士の野村修也氏を講師に迎え、「エグゼクティブ法務戦略セミナー」を開催した。同セミナーは経営法務の知識の取得とその戦略的活用を目的として、企業法務に携わる役員を対象に5回シリーズで行われるもので、第2回となる今回のテーマは「金融」。野村氏の説明は以下のとおり。

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講演する野村氏

近年、金融法制においては、新しい法制度や枠組みが相次いで生まれている。

まず、電子記録債権は、指名債権のデメリット(二重譲渡のリスクを有する、善意取得や人的抗弁制限がない)と、手形債権のデメリット(盗難・紛失のリスクを有する、印紙代がかかる)を克服した新しい債権である。したがって、一部マスコミで使われている「電子手形」という表現は正確ではない。善意取得(電子記録債権法19条)、人的抗弁切断(同法20条)等の規定により、取引の安全と消費者保護が図られており、かつ、発生記録等で適用を排除することによって、電子記録債権を「指名債権型」にアレンジすることも可能という柔軟性も含んでいる。そのため、手形の代替以外にも、一括決済やシンジケート・ローンなど、多くの場面で活用できる可能性を有している。

また、今年の通常国会で成立した資金決済に関する法律では、従来は銀行等の独占事業とされていた資金移動業(為替取引)をそれ以外の会社に解禁した。ポイント交換など既存サービスに対する議論は残されているものの、事業会社も送金サービスへ参入できることとなった意義は大きい。

いずれの制度も、まだ利用が高まっていないが、大きなビジネスチャンスを生み出すインフラであることは間違いなく、ぜひ活用の道を探ってほしい。

一方、近年強調されるようになった消費者保護の潮流は金融の世界にももたらされている。企業に対しては社会的責任が強調されるようになり、生活者の声が大きくなった。対応が最も早かったのは司法で、それまで全く問題視されていなかったような事案についても先進的な判決を出すようになった。そこで、行政も問題が起こったときの責任を逃れようと、先手を打って規制をかけたり処分を下したりし、政治家は選挙のために生活者重視を強調するようになる。加えて、法曹人口増加を受け、仕事を増やさなくてはいけないという事情も相まって、消費者訴訟が「つくられる」ものとなってきてしまった。こうした流れの大きな象徴が消費者庁の設置といえよう。「すき間」を探し出してでも権限を拡張しようとする消費者庁に対し、金融庁が「プリンシプル」を用いてすき間を防ぎ、権限を守ろうとするおそれがあり、結果として金融行政が消費者目線で強化されることが予想される。

また、金融ADR(裁判外紛争解決手続)法も大きな変化をもたらしている。従来の制度は裁判準拠型ADRであり、調停やあっせんに拘束力がなく、訴訟による法的解決に準じた紛争解決を志向していた。しかし、新しい制度では、調停やあっせんは、消費者は拘束しないが金融機関は拘束するという片面的拘束力を有することから、紛争解決機関としては、拒否できる消費者におもねるおそれがある。したがって、これまでは民事紛争にすぎないと考えて外部の弁護士任せにしていたことも、ある日突然行政処分の対象となり得る。金融機関としては、類型的な苦情に対して先手を打ち、民事紛争が行政処分につながるリスクに十分対応していくことが求められる。

【経済基盤本部】
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