日本経団連タイムス No.2971 (2009年10月22日)

WTOドーハラウンド交渉の動向など聞く

−貿易投資委員会


日本経団連の貿易投資委員会(佐々木幹夫委員長)は8日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、外務省の鈴木庸一経済局長、経済産業省の鈴木英夫通商機構部長、農林水産省の山下正行国際部長、財務省の姫野勉参事官から、WTOドーハラウンドの交渉動向とわが国の対処方針について説明を聞くとともに意見交換を行った。4省の説明の概要は以下のとおり。

■ 交渉の現状

保護主義的な雰囲気が強まり、交渉の雰囲気が悪化している。首脳レベルで確認された2010年までの妥結追求という政治的意思が、ジュネーブでの事務レベルの交渉に必ずしも反映されていない。

昨年7月の閣僚会議においてモダリティ(関税削減率等に関する数字の入った共通の指針)合意の間近まで至りながら決裂した後、米国での政権交代などもあって様子見の状態となった。停滞を打開すべく、9月にインドが非公式閣僚会合を主催し、これを機に年内の交渉日程への合意が実現した。今後毎月、高級実務レベル会合を開催し、交渉の進捗をレビューしていく。

問題は、米国が現在の議長案を強く拒否している点である。議長案では、途上国は自由化の例外品目を自由に設定でき、現時点で特定の品目の仕上がりが見えない。米国としては、モダリティ合意前にこれを明確化させ、不十分な点を追加的に交渉したい。この背景として、どの程度の合意内容であれば議会を通るのか米行政府が確信を持てていないことがある。オバマ政権は、来年の中間選挙前に批判を受ける可能性のある課題は先送りし、医療制度改革法案と気候変動関連法案に注力している。また、中国からのタイヤ輸入に対するセーフガード発動など、米国の保護主義的な動きも懸念される。

他方、中国、ブラジル、インド等の途上国は一致して、現在の議長案の再交渉や追加的要求は受け入れられないとしており、米国との対立は根深い。この状況が打開できなければ進展は期待できない。

■ 日本政府の方針

政権交代後、大臣・副大臣と交渉細部に関する議論はまだできていないが、これまでの方針に根本的な変更はないと思われる。鉱工業品、サービスともに交渉の現状に不満が残る部分もあるが、早急に交渉をまとめ現在の議長案に基づく成果を確実に得るというのがわが国の方針である。特に、来年発効の可能性のある韓EU・FTAにより、わが国のEU向け家電・自動車などの輸出において、韓国との競争条件の格差から大きな打撃が見込まれるが、WTO交渉の結果EUの関税全体が削減されれば、影響を緩和できる。

金融・経済危機からの早期脱却のためにも、保護主義を抑制すべくラウンドの早期妥結は重要である。

■ 今後の見通し

11月末からのWTO定例閣僚会議の主眼は、世界貿易の現状とWTO活動全般のレビューだが、ラウンドの進め方も話題になるだろう。

また、9月末のG20ピッツバーグサミットで合意されたとおり、来年の早い時期に、その時点での状況に基づき、閣僚が交渉の進捗を評価したうえで、その後の進め方を判断する。

2010年内の妥結のためには、来年10月のブラジル大統領選挙など各国の政治日程も考慮すると、来年春頃までにめどをつける必要がある。

【国際経済本部】
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