日本経団連タイムス No.2972 (2009年10月29日)

エグゼクティブ法務戦略セミナーを開催

−経営者責任めぐる最近の訴訟事件等テーマに/日本経団連事業サービス



講演する山岸氏

日本経団連事業サービスは13日、東京・大手町の経団連会館で日本経団連と連携し、森・濱田松本法律事務所弁護士の山岸良太氏を講師に迎え、「エグゼクティブ法務戦略セミナー」を開催した。同セミナーは経営法務の知識の取得とその戦略的活用を目的として、企業法務に携わる役員を対象に5回シリーズで行われるもので、第3回となる今回のテーマは「訴訟=最近の取締役(経営者)責任をめぐる訴訟事件と内部統制」。山岸氏の説明は次のとおり。

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取締役の負う責任の本質は、「受託者責任」である。それは、上場企業の経営者が、他人のお金を集めてリスクをとって利益を上げるという受託者としての業務を行い、適正に説明責任を果たす、ということが中核となる。

これに反した場合の民事責任としては、会社に対する責任(会社法423条等)、株主・債権者に対する責任、第三者に対する責任(同429条等)、行政に対する責任(金融商品取引法上の課徴金制度における会社からの求償)等がある。刑事責任としては、会社法上は特別背任罪・会社財産を危うくする罪(違法配当等)・株主への利益供与があり、金商法上は有価証券報告書や内部統制報告書等の報告書の虚偽記載関係で規定がある。このほか、昨今では製品事故で経営者が業務上過失致死傷罪に問われることがある。

取締役の内部統制構築義務は、株主および一般投資家に対する責任であり、後者の方がより重い場合がある。例えば有価証券報告書等の虚偽記載があった場合、株主は間接損害として会社に生じた損害の回復を取締役に求めることができるにすぎないが、一般投資家が虚偽の情報で株式を買った場合は、直接損害として会社および取締役に賠償請求できる。

会社法上の内部統制に関する判例として、その後の訴訟に大きく影響を与えた大和銀行事件では、取締役の内部統制構築義務を明示的に認めただけではなく、内部統制をどの程度整備していれば責任を免れるかは、当時の社会状況やそれまでの判例等、さまざまな事情が総合勘案され判断されるものとした。さらに、内部統制整備を十分に行っていたとする一定の基準が判例で示されたとしても、その後の社会情勢の変化によって、その基準よりさらに高いレベルが求められるようになり得るとした。この考え方を基礎に、その後、北海道拓殖銀行事件、ダスキン事件、蛇の目ミシン事件、ヤクルト事件、日本システム技研事件等では、相次いで経営陣に重い責任を認め、高額の賠償金を課す判決が出された。

さらに、三菱自動車事件や三菱ふそうトラック・バス事件では、製品事故が起こっていたにも関わらず、リコール等の対応を怠ったとして、役員に刑事責任を認めている。かつては、製品事故については、欠陥製品の設計者ないし製品の品質チェックをする立場の人にのみ責任が課されていたが、三菱自動車事件以降は、トップが、被害が起こっていることを認知していながら放置したことをもって責任を認めるようになった。消費者庁も設置され、行政としても消費者保護のために努力していることをアピールするために、製品事故等についてメーカーの責任を厳しく追及していく姿勢がより顕著となる。訴訟においても、内部統制報告書で適正に構築されているとした経営者が不祥事をなぜ予防できなかったのかという視点で司法の判断が下されることとなろう。

内部統制を構築するにあたり、経営者がすべての事象を直接認識しコントロールすることは不可能であり、またコストとのバランスや経営判断の原則、信頼の原則に基づく判断は認められることを踏まえ、訴訟での証拠とできるよう、規定等は文書化し、機能しているか否かのモニタリング実施の具体例も示せるようにすべきである。また、情報が現場にとどまらず、重要な情報が選別されて経営トップに伝わる仕組みをつくらなくてはいけない。そのためには、各段階での責任者を明確にする、複数の伝達ルートを用意する等の対応が考えられる。そうした訴訟事件で有効な内部統制は、不祥事予防にも効果的である。

金商法の内部統制制度は、まだそれほど厳しい運用や監督をされていないが、財務報告に影響のある箇所については、今後しっかりと対応していくべきである。

【経済基盤本部】
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