日本経団連タイムス No.2977 (2009年12月3日)

「開発主義型雇用政策の終焉」

−阿部獨協大学経済学部教授から聞く/経済政策委員会企画部会


日本経団連の経済政策委員会企画部会(村岡富美雄部会長)は11月12日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、獨協大学経済学部の阿部正浩教授から、「開発主義型雇用政策の終焉」をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ これまでの雇用政策の特徴〜開発主義型雇用政策

わが国の雇用政策は、労働者個人を支援するのではなく、企業の雇用調整に対する支援や企業内部の能力開発の充実など、企業の人事管理を通して完全雇用を達成するという思想で展開されてきた。そして、雇用政策の内容は、バブル崩壊後において、わが国の経済成長が一段と低下するなかにあっても変化することはなかった。その結果、不況期における企業内部での雇用保蔵が拡大し、現在では600万人程度にまで達しているとの試算もある。

かつてのように経済が高い成長を見込める場合には、本来外部市場に出るべき人材を社内に保蔵しておくことも効率的であった。しかしながら、経済成長率が低下しているほか、高齢化社会の一段の進行やグローバル化に伴う国際分業構造の複雑化、技術革新の進展などによって環境が大きく変化している現在は、従来型の雇用政策が企業の非効率な部分をかえって温存することにつながっている。

■ 開発主義型雇用政策からの脱却

わが国経済は、総人口が減少し、国内マーケットが縮小する一方、65歳以上の老年人口のウエートが急激に高まりつつある。こうしたなか、人口一人当たりのGDPを維持しようとすれば、15歳から64歳の生産年齢人口の一人当たり生産性を高めなければならない。

そのためには、従来の雇用政策から脱却し、外部労働市場における再配置機能や能力開発機能を強化することを通じて、次の成長部門へ労働再配置を進めるなど、生産性向上に向けて産業や職業の構造を転換させなければならない。

その際には、国際競争の激化や分業の高度化、短期間就業希望者などを背景に増加した、いわゆる非正規雇用問題に対して、適切な対応も欠かすことはできない。具体的には、正社員の保護を緩和し、非正社員の保護を強化するといった均衡待遇や、雇用保険に限らず、社会保障の拡充も含めたセーフティーネットの強化などが考えられる。

【経済政策本部】
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