日本経団連タイムス No.2981 (2010年1月21日)

エグゼクティブ法務戦略セミナー開催

−戦略的M&Aテーマに、5回シリーズの最終回


米講師

日本経団連事業サービスは12月9日、東京・大手町の経団連会館で日本経団連と連携し、森・濱田松本法律事務所弁護士の米正剛氏を講師に迎え、「エグゼクティブ法務戦略セミナー」を開催した。同セミナーは経営法務の知識の取得とその戦略的活用を目的として、企業法務に携わる役員を対象に5回シリーズで行われるもので、最終回となる今回のテーマは「戦略的M&A」。米氏の説明は次のとおり。

1.買収交渉

M&A取引は、買収対象会社が見つかってからは、ストラクチャーの検討、秘密保持契約締結後の基本的な情報の入手、基本合意書の締結(最終契約締結前の予備的合意)、デュー・ディリジェンス(投資対象に関する詳細な調査、以下DD)の実施(ビジネス・会計・税務・法務等)、最終契約案の作成・交渉、最終契約の締結、クロージング、というプロセスを経ることとなる。

この過程で大切なのは、まず、売り手ないし買い手としての交渉カードをきちんと整理・認識して交渉に臨むことだ。一般に、売り手として早期に高い買収価額で売却するためには、最終契約書も交渉の早い段階で締結した方が有利だが、買い手はDDの完了後対象会社の問題状況を把握したうえで、買収価額を含む取引条件を決定した方が有利である。つまり、交渉の早い段階では売り手が強く、買収交渉が進むにつれて買い手が強くなっていくので、自分のポジションが有利なときに条件交渉をすべきということになる。この駆け引きで、日本の企業とアメリカの企業が交渉すると総じて日本の企業の分が悪い。一番の原因は、日本は交渉当事者に全権を委任していないことが多く、交渉のダイナミズムについていけなくなるのだ。そのためには、信頼できるファイナンシャルアドバイザーや弁護士、会計士等を含めた交渉チームに全権を委任し、交渉に当たらせるのが最善である。

また、基本合意書(以下、LOI)の内容をしっかりと詰めることも重要である。法律的に拘束力のある条件として何を規定するのか、あるいは何を規定しないのかは交渉戦略上も重要なポイントとなる。例えば、銀行の統合時の訴訟でも話題になった早期の段階でのブレイクアウトの場合の Termination Fee はその典型的な例である。

いずれにしてもM&Aの交渉は、取引により獲得すべき最低ゴールを設定し、これに達しない場合にはディールブレイクを恐れず「NO」と言えるような交渉を行うことが必要である。

2. 取締役の利益相反問題

MBO( Management Buy-out =現在の経営陣が資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入すること)の局面では、株主の利益を代表すべき取締役が株式の買い付け者側の性格も併せ持つことになるため、必然的に利益相反状態が生じる。また、売り手である株主と買い手である取締役との間での情報格差は大きく、対価の公正さを確保することも含めMBOの設計については慎重な配慮が必要である。

MBOについては経済産業省の企業価値研究会が少数株主保護を目的とし、「企業価値の向上及び公正な手続き確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」を公表しているので、適正なMBO実現に向け参照されたい。

【経済基盤本部】
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