日本経団連タイムス No.2982 (2010年1月28日)

提言「産業構造の将来像」を公表

−5〜10年後のわが国産業像を俯瞰、競争力強化施策示す


今日、世界の産業構造は大きな転換期を迎えている。人口減少や資源制約など、産業を取り巻く環境は大きく変容を続け、これに伴いさまざまな分野で業種や国境を越えた事業の再編や融合が活発化している。そこで、日本経団連では5〜10年後のわが国産業の将来像を描くとともに、中長期的にわが国の産業競争力を強化する施策について、提言「産業構造の将来像」を取りまとめ19日、公表した。

日本経団連として個別産業の将来像を検討したのは、1990年代前半が最後であり、今回はおよそ20年ぶりの産業構造の提言となった。今回の提言の作成にあたっては、まず5年から10年後の産業の将来像を把握するため、業種横断的に23社の経営企画担当の役員にヒアリングを行い、各企業が重要視する環境変化や、それに伴う戦略の動向について調査を行った。

その結果、「わが国産業を取り巻く5つの環境変化」として、従来から指摘されてきた、(1)人口減少と高齢化(2)資源・環境制約(3)グローバル化(4)人々の価値観・行動様式の変化(5)情報通信技術(ICT)の深化――が重要な要因になっていることが判明した。そしてこうした環境変化のもと、個別の産業がどのように変化するのかについて、「産業の将来像」で、具体的な方向性を記述している。

将来像の特徴としては、日本の強みと言われてきたものづくりの競争力が低下していることや、ICTの飛躍的な進展により新しいビジネス・モデルが誕生していること、またサービス産業でも内需型産業からグローバル型産業への変容がみられるようになっていることなどが挙げられる。

こうした産業横断的な特徴を踏まえ、提言では、今後の産業政策に必要な視点を3つに整理した。

第一の視点は、伝統的なものづくりを残し、発展させる戦略である。ここでは、技術の向上と研究開発の促進を軸にしたハイテク産業の振興や、税制、資源・環境問題への取り組みなど7項目を挙げている。

第二の視点として、新しいものづくりを推進すべきであるとの考えから、「無形の『つくる』戦略」を提唱した。ここではその代表例として、ものづくり産業の根幹を担うようになってきたICTの一層の発展や、まちづくりや原子力など、日本が技術力とノウハウを蓄積してきた社会インフラ産業の振興について触れている。

第三に、産業横断的な課題として、「アジア」「人材」「規制改革」「国際ルール・知的財産権」「産業の創出と競争環境の整備」などの課題について、それぞれ必要な方策を提言したほか、企業自身の課題についても触れた。

また最終章では、社会の意識改革までを含む広義のイノベーションの重要性を指摘している。ここでは新しい観点として、政府自身が内部でイノベーションを起こすことで、公共セクターの意識改革を進めることを、「パブリック・イノベーション」と位置付け、規制改革や電子行政、道州制の導入など既成概念にとらわれない政府のあり方を模索すべきであると提言している。

今後、新成長戦略への提言反映などを通じて、具体的施策の実現を図ることとしている。

【産業政策本部】
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