日本経団連タイムス No.2985 (2010年2月18日)

「安全配慮義務違反・労災認定に関する最近の裁判例の傾向」

−五三弁護士から聞く/労働安全衛生部会


日本経団連は4日、東京・大手町の経団連会館で、労働法規委員会労働安全衛生部会(清川浩男部会長)を開催した。部会ではまず、五三智仁弁護士(経営法曹会議所属)が、「安全配慮義務違反・労災認定に関する最近の裁判例の傾向」と題して講演を行った。

五三弁護士は、基本的な理解として、そもそも労働災害が発生した際に使用者側が負うべき災害補償義務は、「不法行為に基づく損害賠償責任」と「労働契約関係における債務不履行責任」があると指摘。そして、労災認定を受けた場合は、労災保険の適用範囲内において補償されるが、認定を受けた場合でも、使用者側は民事上の責任までは免れるものではないと述べた。

また、一般的に「安全配慮義務」といわれるのは、債務不履行責任に基づく派生的・付随的義務として、労働契約という“特別な社会的接触関係”に入った当事者間において、当事者の一方、または双方が信義則上負うべき義務のことであるとした。

そのうえで、最近の労災認定と安全配慮義務を扱った主な裁判例を取り上げ、使用者側としての実務的な対応策について解説した。

例えば、基礎疾患を有する労働者について、労災発生の過程で基礎疾患が自然的経過を超えて増悪することに寄与したと認められ、安全配慮義務違反を問われた判例では、「基礎疾患を有する労働者については、医師に対し十分な情報を提供し、明確な助言を受けたうえで労務管理を行い、それについて使用者側が証明できるようにしておくことが不可欠。これまでのいくつかの裁判例によれば、基礎疾患を有する労働者の労災については、労働者側にも過失があるとして過失相殺が認められやすく、精神的ストレスを生じさせたとしても、その原因に違法性がなければ、安全配慮義務違反を問われる可能性は低い傾向にある。したがって人事上の処遇によって労働者にストレスを与える可能性がある場合は、適法な手続きによることが必要とされる」と説明した。

また、動機・目的が正当であっても、行き過ぎた叱責について安全配慮義務違反を問われた判例では、「社会通念上許される範囲内であれば、厳しく叱責することは問題ない。ただし、人格を傷つけたり、退職を強要するような発言は慎むべきとされた」と紹介した。

五三弁護士は、さらにいくつかの裁判例を基に、必要とされる使用者側の具体的な対応について説明を行った。

続いて、厚生労働省労働基準局安全衛生部の亀澤典子環境改善室長が「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会」の現状について説明。さらに、厚生労働省労働基準局労災補償部の渡辺輝生職業病認定対策室長から、労働基準法施行規則35条の「業務上の疾病の範囲」の見直しについての報告、今後の手続き等についての説明が行われた。

【労働法制本部】
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