日本経団連タイムス No.2986 (2010年2月25日)

国際租税制度の現状と今後のあり方を議論

−21世紀政策研究所が第69回シンポジウムを開催


21世紀政策研究所の第69回シンポジウムでのパネル討論

日本経団連の21世紀政策研究所(御手洗冨士夫会長、宮原賢次理事長)は10日、東京・大手町の経団連会館で第69回シンポジウム「わが国企業を巡る国際租税制度の現状と今後」を開催した。

同研究所では昨年4月から、青山慶二研究主幹(筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授)を中心に、わが国を代表するグローバル企業の国際租税担当者、税理士法人パートナーおよび大学研究者などを交えて、国際租税制度の今後のあり方について検討しており、今年2月に「わが国企業を巡る国際租税制度の現状と今後」と題する中間報告書を取りまとめた。同シンポジウムは中間報告書で取り上げた課題を中心に論議されたが、専門的な内容であったにもかかわらず、会場には200名近くの参加者が詰め掛け、熱心にメモを取るなどして各講師の話に聞き入っていた。

冒頭のあいさつで、宮原理事長は、税制は経済活動にとっての社会インフラであることを指摘し、昨今の企業のグローバルな事業展開や、産業構造におけるIT化・サービス化の進展に対応できるよう、国際租税制度の見直しが喫緊の課題であることを強調した。

「わが国企業を巡る国際租税の環境と主要課題」と題する基調講演のなかで、青山研究主幹は、中間報告書の概要を説明した後、平成22年度の税制改正大綱における国際租税関連項目のうち、企業活動と関連の深い移転価格税制と外国子会社合算税制の改正を中心に解説した。また、同研究主幹はOECDやBIAC(OECD経済産業諮問委員会)における国際租税分野の最近の議論を紹介するなかで、同研究所における研究会の意見が、BIACのコメントとして取り上げられ、OECDに提出されるなど一定の成果を上げていることについても言及した。

その後、中間報告書に基づいて、岡田至康税理士法人プライスウォーターハウスクーパース顧問が「移転価格税制を巡る最近の諸問題」、一高龍司京都産業大学法学部教授が「事業再編に係る移転価格の論点」、高嶋健一KPMG税理士法人パートナーが「事業再編に係る恒久的施設の論点‐代理人PEを中心として」、浅妻章如立教大学法学部准教授が「外国子会社合算税制の存在意義と方向性」とそれぞれ題する報告を行った。

パネル討論では、移転価格の算定方法に大きな転機を迎えつつある移転価格税制について、OECD移転価格ガイドラインの改定案に関して補足説明が行われた後、現在のわが国の移転価格の算定方法における利益法の適用実態が紹介された。そのなかで、現在わが国では残余利益分割法が多用されているものの、2010年度からは取引単位営業利益法が活用され始めるのではないかといった見通しなどが述べられた。

また、資産性所得の概念が導入される外国子会社合算税制の改正については、米国の現状からみて、法令等で能動所得と受動所得の振り分け基準を明確化することが重要であるとの見解や、今回の資産性所得の概念の導入に関しては、実務的にそれほど重い負担にはならないであろうとの見通し、今回の資産性所得の概念の導入が、今後わが国の国際租税制度全体に影響を及ぼす可能性などについて意見が述べられた。

※中間報告書については、近日、同研究所のホームページで公開予定である。

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