日本経団連タイムス No.2987 (2010年3月4日)

経済成長のカギ握るIT活用

−篠崎九州大学教授から情報通信技術の説明を聞き意見交わす
/情報通信委員会情報化部会


日本経団連の情報通信委員会情報化部会(遠藤紘一部会長)は2月19日、都内で会合を開催し、九州大学大学院経済学研究院の篠崎彰彦教授から、経済成長における情報通信技術の重要性に関する説明を聞いた後、意見交換を行った。篠崎教授の説明概要は次のとおり。

ITを活用すれば、2%成長の可能性も

世界は同時不況だが、各国の名目GDPの推移を見ると、日本の長期停滞は異様であることがわかる。早急に成長戦略を定め、情報化の波に乗り遅れないようにする必要がある。

自分が主任研究員を務める日経センターのマクロ計量モデルを用いた予測によると、1%程度の成長率となる「基本シナリオ」では、企業が投資を控え、家計も将来不安から消費を控え、内需が委縮することにより、今後10年間デフレから脱却できないことになる。国債への投資が海外等に移り、長期金利が上昇することを前提とする「失速シナリオ」では今後10年間もゼロ成長となり、失われた30年となる可能性がある。この停滞を打破する突破口として、ITが有望である。法人税率の引き下げ、IT投資の加速を前提とした「加速シナリオ」では、2%成長も視野に入ってくる。

ITは課題解決と成長戦略の要である。特に、情報の価値化が進むなかでデータセンターなど上位レイヤー(層)の情報サービス産業が重要となる。医療や教育等の集約情報や、共通番号など、価値ある情報の取り扱いに関する社会的合意を形成することが必要となる。ITで徹底的に社会保障不安をなくすと、消費者の不安が解消され、日本経済の成長につながる。情報サービス産業の設備投資は、生産波及効果が約2倍ある。IT分野は他の産業に比べて雇用誘発効果も高い。

経済予測の結果、このままだと大変なことになるという危機感を感じる。しかし、ITを活用し、医療・年金等の課題解決につなげ、国民の不安感や閉塞感を打破すれば、2%程度の成長を達成する可能性はある。

■ 意見交換

続く意見交換では、「ITを使って、無駄に使われている富を、医療や社会保障等の必要なところに投資すれば、大きな効果に結び付くということだった。企業でも、小さな投資で大きな効果を得る成功例を示すことにより、全社的展開が容易になる」などの指摘があった。

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情報通信委員会では、ICT戦略に関わる提言を今月に取りまとめ、公表の予定である。

【産業技術本部】
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