日本経団連タイムス No.2988 (2010年3月11日)

所得税と社会保障制度改革について説明聞く

−所得税の「四位一体改革」など/税制委員会企画部会


日本経団連は2日、東京・大手町の経団連会館で税制委員会企画部会(田中稔三部会長)を開催し、一橋大学理事・副学長、国際・公共政策大学院教授の田近栄治氏から、歳出入一体改革からみた税制問題について説明を聞くとともに意見交換を行った。田近教授は、現在、政府税制調査会の専門家委員会の委員を務めている。田近教授の説明概要は次のとおり。

現在わが国では、経済のグローバル化により、国内賃金の引き下げ圧力が続いており、現役労働者間での所得格差が拡大している。また、少子・高齢化の進行により、社会保障費が増大している。日本が直面する問題への対応として、労働意欲を阻害しないよう配慮しつつ、税収および地方財源を確保し、低所得者や若年労働者に対する支援を行うことが必要である。

まず、税収面では、所得税の見直しが必要である。日本の所得税が抱えている問題として、(1)世界的にみて高い最高税率を有しているが、所得控除が大きいことから、低中所得者のみならず、高所得者も、税負担が大幅に軽減されていること(2)ほとんどの世帯において、社会保険料の負担は、所得税に比べて大きいこと(3)年金世帯の税と社会保険料負担が、給与所得世帯よりはるかに低いこと――の3点が挙げられる。

これらの問題への対応として、所得税の「四位一体改革」(所得控除の大幅削減による課税ベースの拡大、最高税率は引き上げないこと、格差には税額控除で対応すること、地方所得税の強化による地方財源の確保)が必要である。また、田近教授らの推計では、基礎控除、配偶者控除、扶養控除といった所得控除を廃止し、社会保険料を上限として還付する税額控除制度を導入した場合、税収合計額を増やしつつ、低所得層の総負担額軽減が可能になるとの結果が示された。

次に、社会保障については、現在の年金、医療、介護保険は、「賦課方式」によっているため、現役世代の社会保険料負担が増大しており、将来世代も、公債として負担させられている。また、日本では、社会保障給付の一定割合が、自動的に税負担とされ、さらに、税で不足する時には公債につけまわされるため、高齢化に伴う財政負担に歯止めがきかない。社会保障の持続可能性を確保する観点からは、給付に見合った負担を求めつつ、負担能力の低い者には負担を軽減するように改革するべきである。負担の公平性の観点からは、前述のとおり、税額控除制度による税と社会保険料の一体的な調整が不可欠である。また、生活の質の向上を図るためには、医療と介護の一体化など、提供体制の抜本改革が必要である。

【経済基盤本部】
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