日本経団連タイムス No.2988 (2010年3月11日)

地域主権時代の自治体財務のあり方を議論

−21世紀政策研究所、第70回シンポジウム開催


地方行財政・地域再生に関して議論を深めた
21世紀政策研究所の第70回シンポジウム

日本経団連の21世紀政策研究所(御手洗冨士夫会長、宮原賢次理事長)は2日、東京・大手町の経団連会館で第70回シンポジウム「地域主権時代の自治体財務のあり方」を開催した。同研究所では昨年から、公的部門の「生産性」向上という観点から自治体の資金調達のあり方を議論してきたが、今回のシンポジウムはこれまでの議論の成果を踏まえ、地方行財政ならびに地域再生に関し、政策議論を深めることをねらいとしたものである。

まず、宮原理事長が開会あいさつで、「上下水道などの社会インフラの整備は一巡し、今後は老朽化に伴う維持管理に膨大な資金需要が見込まれる。そうしたなかで、果たして従来のような国依存・全国一律型の資金調達で大丈夫なのか」と問題提起し、資金面に着目した研究を始めた背景を紹介した。

続いて大庫直樹研究副主幹(ルートエフ代表取締役)が「地域再生と地域金融機関のあり方」と題して第一部報告を行い、「地域金融機関は貸出業務において、貸出先がない、金利低下で利ザヤが縮小、景気後退で信用リスクが急拡大、という三重苦を抱えている」と現状を分析。「自治体が経営する上下水道などの都市事業サービスの資産規模は約86兆円。地域金融機関の資金を都市事業サービスに連動できる仕組みをつくることができれば、地域経済の好循環を生み出していくことにつながるはず」と指摘した。

第二部では、上山信一研究主幹(慶應義塾大学教授)、大庫副主幹、倉田あや副主幹による「公的セクターの資金生産性の向上」と題した共同報告があり、それに対して逢坂誠二内閣総理大臣補佐官がコメントした。報告では、「現在の自治体の財政機能は、出納業務の域を超えるものではない。これでは社会インフラ更新のための膨大な資金需要には応えられない」として、「出納業務から独立した財務マネジメント部門の設置、都市事業サービスの分社化、CFOの設置による統合的な財務活動、個々の都市事業サービスのリスク・経営状況にあった資金調達を可能とする地方債制度の構築、個人金融資産の取り込みのための優遇措置の必要性」などの具体的な提言が行われた。

これに対し、逢坂補佐官は、「提言内容にはまったく賛成だ」としたうえで、「自治体の課税自主権発揮のためにも、地方債・地方交付税・ひも付き補助金の制度見直しは重要」「初期投資額の負担や利用料金収入など公営企業の収益構造をさらに掘り下げて分析してほしい」「自治体財政の自由度を高めた場合、自治体が倒れるリスクにも対処できるよう、画一的な自治体構造を見直す必要がある」と述べた。

その後のディスカッションでは、「水道などは市町村単位ではなく、もう少し広域化したらどうか」「調達金利の選択肢を広げるべき」「黒字の公営事業はバランスシートから切り出すべき」「例えば大阪市のような大都市自治体が財政的に自立できない今の制度はおかしい」「景気の良しあしにかかわらず地方交付税の交付団体数が変わらないのはおかしい」「公営事業に対する市民のガバナンスをいかに発揮させるかが重要」など、多岐にわたる議論が展開された。

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