日本経団連タイムス No.2992 (2010年4月8日)
シリーズ記事

昼食講演会シリーズ<第5回>

−「日米関係の現状と今後の課題」/岡本アソシエイツ代表 岡本行夫氏


日本経団連は3月12日、東京・大手町の経団連会館で第5回昼食講演会を開催、191名が参加した。今回は岡本アソシエイツの岡本行夫代表を招き、日米関係の現状と今後の課題について講演を聞いた。講演概要は次のとおり。

■ 現在の日米関係

日米関係は過去最大の危機にある。これまでにも貿易摩擦や湾岸戦争の際に関係が悪化したことはあったが、これらはいわば「外傷性」であった。現在は「内生疾患」であり、その病原は深い。

オバマ政権は昨年11月に訪日するまでは親日的だった。安全保障に関する発言では、日本はオーストラリアや韓国等とともに言及されることが多いが、クリントン国務長官就任時の公聴会証言では、イラクとアフガニスタンの次に、日本が特掲された。また、オバマ大統領が就任後に最初にホワイトハウスに招いた元首は当時の麻生太郎総理である。さらに、プラハでの「核のない世界」演説、カイロでの「イスラムとの和解」演説等と並ぶメジャーな「アジア政策」演説を、北京ではなく東京で11月に行った。この演説の内容も、プラハ演説やカイロ演説では、演説地に対しては通り一遍のあいさつしか行わなかったのに対して、東京では日本の役割と貢献を非常に高く評価する賛辞を贈った。これは、日米関係の強固さをアピールすることで、アジア諸国に「日本を軽視するな」とのメッセージを発したものである。

しかし日本政府は、こうしたオバマ大統領の意向をくみ取ることはなかった。有事の際に日本を守る条約上の義務を負っている唯一の国であるアメリカと、尖閣諸島の領有権を主張している等の中国とが等距離の正三角形と論じている。

日米地位協定が不平等であるというが、問題とされているのは、起訴前の被疑者を日米のどちらが拘留するか、という限定的な論点である。もし起訴前からの日本での拘留にこだわるのであれば、米国側は被疑者に拘留当初から弁護士をつけることや、米国側の裁判管轄権の拡大を主張するだろう。

■ 普天間基地移設問題

昔は東京をはじめ関東圏にも多くの米軍基地があったが、いまでも残っているのは横田、厚木、横須賀のみである。日本の防衛上必要な基地の総数はあまり減っていないが、沖縄が本土に復帰した1972年以来、沖縄の基地を減らさずに本土の米軍基地をかなり減少させてきた。本土と沖縄の扱いには落差があり、沖縄県民は不満が鬱積しつつも我慢してきた。しかし、民主党の選挙のキャンペーンによって沖縄の世論は「県外移設」で硬化してしまった。

■ 日本をめぐる情勢

アメリカが沖縄から撤退したら、日米安保の抑止力は大幅に減退する。抑止力とは、中国や北朝鮮に対して「日本を攻撃したら後でアメリカから攻撃される」と思わせることで日本への攻撃を思いとどまらせるものである。日本の自衛隊は専守防衛のための戦力なので、他国への大きな抑止力とはならない。

日本の防衛費は、GDPの1%程度の4兆8000億円程度であり、他国と比べて負担は非常に少ない。他の先進諸国の防衛費はGDPの2〜3%程度である。日本で2%とするためには現在より5兆円、ヨーロッパ諸国の水準である2.5%とするためには8兆円の財源が必要となる。この負担を考慮すれば、アメリカへの思いやり予算約2000億円は非常に少ない負担である。

■ 今後取るべき道

アジア各国は、日米が一体だからこそ、日本に一目置いている。また、日本国内でも日米安全保障条約については76%の支持率があり、国民的なコンセンサスがある。現在行われている議論が沖縄県に不当に集中している負担を軽減させて県民の不満感を和らげ、さらに対米関係を改善させることができれば「雨降って地固まる」とすることもできよう。

【総務本部】
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