日本経団連タイムス No.2995 (2010年4月29日)

<解説> 提言「豊かで活力ある国民生活を目指して〜経団連成長戦略2010」 <上>

−成長戦略を策定・実行していくために必要な4つの視点と基本的な経済政策の3つの柱


日本経団連が13日、公表した提言「豊かで活力ある国民生活を目指して〜経団連成長戦略2010」前号既報)について、今号から3回にわたって紹介する。

同提言は、日本経済の現状について、デフレからの早期脱却が喫緊の課題であると指摘したうえで、政府が名目3%、実質2%の経済成長を目標として掲げたことを評価。ただし、目標の達成には、官民の総力を挙げた挑戦と包括的な成長戦略の実施が不可欠であるとし、成長戦略を策定・実行していくにあたっては、経済界が重要と考える4つの視点と、基本的な経済政策の3つの柱に留意すべきだと訴えた。それぞれのポイントは次のとおりである。

■ 成長戦略を策定・実行していくために必要な4つの視点

第1は、イノベーションを軸として、企業の国際競争力を強化し、国内に雇用を生み出していくことである。企業活動が活性化しなければ、新たな雇用を生み出すことは容易ではなく、国民が安心して豊かな生活を送ることも困難である。こうした観点から、経済のグローバル化の進展にあわせ、国際的に整合性のとれたビジネス環境を整備することを求めた。

第2は、需要面と供給面、大企業と中小企業を一体的にとらえることである。企業経営上、需要を考えない供給はなく、また企業規模にかかわらず、ネットワークを形成し、活動している。そこで、需給両面の対策をバランスよく講じるとともに、わが国の強みである大企業と中小企業のネットワークを、今後とも維持・強化していくことが重要となる。

第3は、税・財政・社会保障の一体改革である。成長戦略の実施には、税・財政のサポートが不可欠であり、成長力の強化とあわせて、安定財源の確保・財政健全化目標を含む歳出・歳入改革の具体像を示すことが必要である。

第4は、パブリック・イノベーションの推進である。イノベーションは民間だけで行うのではなく、官においても、意識改革を進め、前例主義を排して、斬新な手法を導入していくべきであり、こうした考えのもと、電子行政や道州制の実現を推し進めていくことが肝要である。

■ 基本的な経済政策の3つの柱

第1は、企業の国際競争力のさらなる強化である。具体的には、法人実効税率の引き下げなど国際的に整合性のとれたビジネス環境の整備、ものづくりとサービスの融合による新たなビジネスの創出、経済連携強化によるアジアの需要獲得が求められる。これらの前提として為替の安定は欠かすことができない。

第2は、新しい内需の創出と成長力の強化である。わが国が将来にわたって成長し、かつ豊かな生活を実現するためには、分野横断的にイノベーションを実現していく必要がある。具体的には、建築物・設備の省エネ化やバリアフリー化・耐震化等を通じた良質なストック形成、インフラの戦略的維持管理、グリーン・ツーリズムやメディカル・ツーリズム等を含めた新たな需要を規制・制度改革の推進などにより生み出し、成長につなげていく努力が不可欠である。

第3は、柔軟性とセーフティーネットを兼ね備えた労働市場の構築である。現在、高止まりしている失業率の改善に加え、将来の労働力不足への対応として、多様な働き方に対応できる就労形態、子育て支援の充実・強化、ワーク・ライフ・バランスの推進、労働市場におけるセーフティーネット機能の早急な充実が求められる。

あわせて成長戦略に実効性を持たせ、将来にわたって確実に成長に結び付けていくためには、工程表の策定と進捗管理が不可欠である。また、財政面での裏付けとして、成長戦略を実行するための特別予算枠を設定し、優先的に予算を確保することで、限られた資源を有効に活用することが求められる。

◇◇◇

次号は、「成長の実現に向けた6つの戦略と規制改革」について解説する。

【経済政策本部】
Copyright © Nippon Keidanren