日本経団連タイムス No.2997 (2010年5月20日)

「経営環境の変化にともなう企業と従業員のあり方」発表

−職場の課題解決へ対応策提示


日本経団連は18日、報告書「経営環境の変化にともなう企業と従業員のあり方 〜新たな人事労務マネジメント上の課題と対応策」を発表した。同報告書は、経営環境の変化にともない職場に生じている5つの課題の解決に向けた基本的な考え方や対応策のポイントを取りまとめたもの。ヒアリングした22社の企業事例も紹介している。概要は次のとおり。

■ 経営環境の変化にともなう経営・組織および職場における変化と課題

グローバル化の進展にともなう国際競争の激化など、経営環境の変化を受け、企業は、経営のスピード化やグループ経営の強化、少子・高齢化社会を見据えた各種戦略の策定・見直しなどのほか、従業員一人ひとりの能力や就労ニーズを踏まえた人事労務管理を推進している。こうしたなか、職場では、(1)従業員・組織間の一体感の醸成(2)技術・技能、ナレッジの伝承(3)ミドルマネジャーをめぐる問題の解決(4)多様な就労ニーズへの対応(5)海外人事労務マネジメントの強化――の5つの課題に直面している。

■ 企業と従業員のあり方に関する基本的な視点

雇用形態の違いにかかわらず、すべての従業員が自社にとって最も重要な経営資源であり、「人材力」を高めていくことが、自社の競争力の強化につながるという人材重視の理念は、普遍的なものとして堅持することが企業には求められる。

そこで、非正規労働者を含めたすべての従業員が意欲を持って働き、持てる能力を最大限に発揮できる職場環境を整備するために、雇用形態の違いや働き方に応じた公正処遇と、有期従業員のモチベーションを高めるような活性化施策をあわせて実施していくことが重要となる。

■ 職場における5つの課題解決に向けた基本的な考え方と具体策

(1)職場における一体感の醸成に向けた取り組み

わが国企業の強みである「従業員一人ひとりの能力・責任感の強さ」と「一体感からくるチームワーク」が生み出す「現場力」の強化のためには、有期雇用従業員も含めたすべての従業員を対象とした満足度調査等を実施し、現状を踏まえた対策の実施が求められる。具体的には、経営理念や経営ビジョンの共有、個々人の努力を褒め合う制度の活用、社内交流イベントの実施、人事ローテーションによる縦割り意識の解消、パートナー企業も含めたグループ全体での人材力強化に向けた取り組みなどが挙げられる。

(2)教育訓練体制の強化

企業組織の中長期的な維持・発展のためには、安定的な採用による人員構成の維持と、適切な教育訓練による従業員の成長の促進が不可欠である。そこで、メンタリング制度によるOJTの制度的支援や、従業員の主体的なキャリア形成支援、卓越技能認定制度の導入など円滑な技能伝承に向けた取り組みが重要となる。

(3)組織の中核を担うミドルマネジャーの支援・育成

組織の司令塔であるミドルマネジャーの強化にあたっては、求められる役割や心構え、スキル、リーダーシップに関する考え方を身につける研修の効果的な実施に向けた工夫(自社事例がベースの研修等)や、部下への権限移譲などによる業務効率化、業務内容や役割、責任に見合った権限付与と賃金水準の検討、モチベーションを高めるための取り組みなどが求められる。

(4)従業員個々人の意思を踏まえた人事諸施策の実施

新しいニーズに対応した商品やサービスを提供していくためには、従業員の多様な価値観や発想を尊重し、その能力を引き出すことが重要となる。そこで、育児支援制度の充実や短時間勤務制度、再雇用制度の導入による女性の活躍推進、ワーク・ライフ・バランスの実践など、働きやすい職場づくりに多くの企業が取り組んでいる。また、「予防」と「早期発見」に重きを置いたメンタルヘルス対策の重要性が高まっている。

(5)海外拠点および外国人労働者のマネジメントの充実

海外人事労務において最も重要なことは、現地の文化や慣習を踏まえた対応を行うことである。そのため、現地法人の経営幹部や駐在員を対象とした現地の労働法と労働慣行に関する知識の付与や、文化や習慣などの違いにより負担が増える駐在員とその家族への身体・心の健康管理の充実に向けた取り組みが求められる。

【労働政策本部】
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