日本経団連タイムス No.3000 (2010年6月10日)

イングランド銀行金融政策委員 ポーゼン氏の講演会を開催

−現下の国際金融情勢テーマに


経団連は5月31日、金融制度委員会(奥正之委員長)において、イングランド銀行(英中銀)金融政策委員を務める米シンクタンク・PIEEシニアフェローのアダム・ポーゼン氏の講演会を開催し、現下の国際金融情勢について聞いた。講演の概要は次のとおり。

強力な政府の介入を背景に、金融危機に直面した各国の状況はとりあえず安定している。しかし、現在の構造を根本的に改革しない限り、その基盤は引き続き脆弱なままである。G20によって提案されている解決策は、個々の金融機関に対するインセンティブ規制が中心であるが、それらは個々の問題を「火消し」するだけである。より根本的な解決のために、金融システム全般にわたる構造改革に着手すべきである。

例えば、新たな金融規制強化としてバーゼル委員会は自己資本規制の強化、流動性規制とレバレッジ比率規制の導入、OTCデリバティブ市場の標準化の促進などを進めようとしている。これらの施策によって一見混乱が収まったように見えても、このような厳しい規制に耐えるには、銀行は相応の資本強化が求められ、結果として金融機関の拡大を助長することになる。より大きな規模になった銀行を保証するためには、政府の保証も手厚くならざるを得ない。どうしても政府が保証しきれないケースに対応して、巨大化した「システム上重要な金融機関」(SIFIs= Systemically Important Financial Institutions )をいかにクリーンに閉鎖させるかというルールづくりが進められている。しかし事前に取り決めておいたことでも、実際の破綻の場面で、その仕組みがどれだけ実効的に機能するか、その効果は未知数である。

G20が、根本的な問題解決につながる施策を打てない理由の一つに、各国がナショナリズムにとらわれ、自国の金融事情に都合の悪い規制は回避しようとしていることが挙げられる。例えば、ヘッジファンド規制にイギリスは消極的であるが、ドイツやフランスはむしろ積極的である。他方、資本に国の資金が入っている金融機関に対する規制にはドイツやフランスが強く反対する、といった具合に、各国の政治的圧力のために足並みが揃わない。

さらにアメリカは、基軸通貨たる米ドルを有しながら、国力の相対的な弱体化を理由に、公共財の提供を渋るようになった。実際、米ドルの基軸通貨としての位置付けは、もはや経済的な力ではなく、政治的な力によるところが大きくなってしまっている。ユーロは現在厳しい状況にあるが、いずれ主要な地域通貨としての力は回復できるだろう。しかし、本来は、ドルに代わる基軸通貨となる可能性を有していたのに、そのチャンスを逃してしまったといえる。

G20は通貨に関してもいくつか新しいルールを提示しており、それは実行されるであろうが、12年前のアジア通貨危機の時と同様、通貨に対してはあまり積極的な対策を打たないようである。IMFがより積極的な対応に踏み切るべき時であると考える。

【経済基盤本部】
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