日本経団連タイムス No.3001 (2010年6月17日)

「世界の頭脳」を目指す中国の高等教育

−中国の科学技術人材育成策聞く/産業技術委員会産学官連携推進部会


日本経団連の産業技術委員会産学官連携推進部会(西山徹部会長)は2日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、科学技術振興機構中国総合研究センターの角南篤副センター長から、「グローバル・イノベーション時代の『人材強国』中国」をテーマに、科学技術人材育成に関する中国の政策について説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ 「Silent Sputnik」‐アジアの時代の幕開け

中国の研究開発投資額は2005年から世界第3位となっている。GDPに占める研究開発投資の比率も急激に伸びており、2006年には1.4%を超えた。研究者数もすでに米国と同程度の142万人と日本の2倍の水準であり、研究者数の多さがさまざまな研究テーマへの分散を可能としている。論文発表数も急増しており、日独英と同程度のシェアを占めている。

こうした中国の勢いや研究開発中心地の欧米からアジアへのシフトは、「アジアの時代の幕開け」として世界中で認知されつつある。米国においては、1957年に旧ソ連による人工衛星スプートニク1号の打ち上げ成功が米国に引き起こした「スプートニク・ショック」になぞらえた「Silent Sputnik」(サイレント・スプートニク)と表現し、世界の科学界に大きなインパクトを与えていると指摘している。

■ 「人材強国戦略」と中国の高等教育の特徴

中国は「科教興国」を掲げ、イノベーションの意識と能力に富んだ人材の育成を戦略的に推進しており、着実に成果が表れ始めている。例えば重点大学を指定し、大学・教員・学生に対する「エリート教育」を実施している。これらの重点大学の学長はほぼ全員が60歳未満と若く、スピード感や柔軟性があり、また強い政治的権限も与えられているため、財源確保や自由な大学運営が可能となっている。また、中国は年間7800名の国費大学院生・研究者の公費派遣(日本の6倍以上)等の留学奨励策とともに、国家研究機関の重要ポストへの招聘・起業支援等の海外人材呼び戻し政策(いわゆる海亀政策)も積極的に行い、国際的な頭脳循環や知的ネットワークの構築に努めている。

■ 日本の人材育成

日本も世界の頭脳循環に積極的に参画する政策を志向すべきである。とりわけアジア域内においては、昨年10月に北京で開催された日中韓サミットで鳩山前首相が提案した「日中韓大学間交流・連携推進会議」で検討されている、教育の質の保証を伴う三カ国大学間の単位互換制度を骨格とする「CAMPUS ASIA」(キャンパス・アジア)構想のような、双方向型の留学生支援政策が重要である。こうした取り組みにより、「内向き」と言われがちな日本人学生のアジア域内における交流を進めるべきである。

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質疑応答では、「中国からの留学生がさらに増え、そのなかから質の高い人材が日本で活躍するという流れができれば、日本人にとっても有効な刺激となる」との意見が出され、角南副センター長から「そうした提案を産業界側からより積極的に行ってほしい」との期待が寄せられた。

【産業技術本部】
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