日本経団連タイムス No.3001 (2010年6月17日)

集団的消費者被害救済制度構築の課題で奥宮弁護士から説明を聞く

−経済法規委員会消費者法部会


日本経団連は2日、経済法規委員会消費者法部会(松木和道部会長代行)を開催し、田辺総合法律事務所の奥宮京子弁護士から、集団的消費者被害救済制度の構築の課題についての説明を聞いた。
奥宮弁護士からの説明の概要は次のとおり。

■ 議論の経緯

アメリカにはクラスアクション(集団訴訟)の制度があり、日本にも同様の制度を導入できないかということが古くから議論されてきたが、あまりにドラスティックである等のことから見送られ、2007年の消費者契約法改正により適格消費者団体による違法行為差止め請求制度が導入されるにとどまっている。

従前、わが国の民事訴訟の枠組みにおいて集団的な被害回復の手段としては、通常共同訴訟制度が存在している。民事訴訟法の大規模訴訟の特則の活用や審理計画の策定の推進により、審理は迅速になってきており、さらにはインターネットなどの発達に伴い、以前に比べて容易に大規模原告団・弁護団が形成されるようになっている。また、選定当事者制度もあるが、この制度は、書面による選定行為が必要であることもあり、実際には活用されていないとの指摘が多い。

どちらの制度によっても、少額被害の救済は困難であるという問題意識から、同種多数の消費者被害について、新しい集合的権利保護訴訟制度や違法収益剥奪制度が必要であるとの議論が高まり、現在の消費者庁の研究会を中心とした議論につながっている。

■ 制度設計

集合的権利保護訴訟の制度設計については、オプトイン型・オプトアウト型・併用型のいずれを採用すべきか、オプトアウト型の場合は被害者への告知方法・費用をどうするか、原告適格をどうするか(適格消費者団体とするか、被害者のうち全体を代表し得る者とするか)、個別の被害額を限定すべきか等が論点となっており、これらは相互に関連し合っている。

オプトアウト型については、個々の被害者からの授権なしに個別的な権利が処分されてしまうという手続保障上の問題があり、わが国の法制下では導入は難しいという意見もある。したがって、仮にオプトアウト型を導入する場合は、集合的な訴訟によらなければ救済されないような少額の被害事案に限定する必要があろう。また、オプトアウト型を導入した場合、被告側の事業者の手元にある被害者に関する情報を提供する必要が生じることにも注意すべきである。

なお、オプトイン型は、選定当事者制度と実質的に変わりはなく、少額被害の救済における実効性の点からは、導入する意義はほとんどないと言われている。

消費者庁の研究会においては、二段階型の提言もなされている。これは、一段階目においては個別損害額の認定を行わず、共通の争点である責任の有無等について判決を出すという考え方である。この考え方の詳細はわからないが、一段階目はオプトアウト型にし、二段階目は調停などを活用して個別に損害額を確定するということが議論されているようである。

さらに、二段階型であれば、少額の被害に限定しなくてもよいのではないかとか、複数の被害者がいる製造物責任訴訟等にも適用してよいのではないかという意見もある。しかし、責任の有無等のみといっても、オプトアウト型であれば、集団の構成員全員に判決の既判力が及ぶので、やはり手続保障の問題がある。また、被告にとっては、損害の上限が不明のまま一段階目の訴訟が提起されるとしたら、問題が多いであろう。

■ 各国の動向

デンマークでは、数万円程度の少額の被害事案について、消費者オンブズマンが原告となってオプトアウト型で訴訟が行われ、共通の争点である被告の責任のみを判断しているとのことである。イギリスなどでは、北欧の制度を参考にして、オプトアウト型の訴訟制度導入の提言がなされているが、政治的・経済的な理由により、いまだに実現していないようである。カナダでは、アメリカ型のクラスアクションをベースにして二段階型も採用され、濫訴等の弊害はないと言われている。

消費者被害の救済制度も、国際基準というものを念頭におかなければならない。その意味で、各国の制度を参考にするのは良いが、それぞれの法制度は、その国の政治・社会等の前提のもとで運用されているものである。わが国への導入議論の際には、そのことを十分留意する必要があるし、経済界においてもしかるべき意見を述べてほしい。

【経済基盤本部】
Copyright © Nippon Keidanren